友成純一『肉の儀式』(ミリオン出版)読了。大森望氏も絶賛な本作品は、二短篇が収録されている。かしばさんからミスコンのときに譲っていただいたもので、いまさらながらだが読了。「肉の儀式」という中篇と「猟人日記」という中篇の二つが収録されている。デビュー作とはいえ、これはすごい。この作品、これでもかという悪趣味な描写がすざましい。ただ物語自体は正統的な伝奇SFであり、非常に読ませる。人里から離れた村落共同体の美貌の女性が生んだ子供はシュラだった。むらの掟により、シュラの子供は捨てられ、村には平穏な日々が訪れたはずだった……。ところが若い娘が突然失踪しはじめ、村の中では長の手先ともいえる泣き顔と怒り顔とよばれる実行係が監視をしはじめた……、というのがあらすじ。これにエログロが加わるのだが、この描写がとにかく迫真である。苛めの描写が鬼畜であり、おぞましくもある。しかし読了感はクライブ・パーカーに近い。和製スプラッタパンクという肩書きは伊達ではない。伝奇ホラーとしては読ませるし、非常にうまいと思う。友成氏が早熟の天才であるというのは本中篇を読んでつくづく思った。大森望氏や竹本健治氏が絶賛する理由もうなずける。
「猟人日記」も実によくできたサイコものである。心に深いトラウマを負った主人公は同じマンションに住む美女と思いを遂げようと強硬手段にでるが……、というのがあらすじ。「猟人日記」はケッチャムの『ロード・キル』(扶桑社ミステリ文庫)を読んだ人や、「ナチュラル・ボーン・キラーズ」が好きな人ならば違和感なく読めるであろう。とにかく驚愕のラストには誰もがびっくりするでしょうが。(少なくとも鈴木光司の短篇よりもアイディアは先だし、おぞましい。)ラストにしても牧野修を超える電波系が入っていてびっくり。しかし友成純一という作家は凄まじい。なにが凄まじいのかは読んだ人にしかわからないかもしれないが、一言で形容すれば「良識を無くしたケッチャム」である。ただし文章のうまさは保証するし、そのすごさは筆舌に尽くし難い。やはり早熟の天才だとしかいいようがないだろうか。機会があれば是非一読してほしい。
山田正紀『アフロディーテ』(講談社文庫)読了。これまたかしばさんさんに「一気読みするくらい面白い!」といわれた長編。人間の英知を集めて完成した、人口の理想の海上楽園都市”アフロディーテ”に夢を託して移住した青年・蒔田雄一の身に起こったことは?というのがあらすじ。とにかく山田正紀自身のノスタルジックな気持ちが正直に表れた作品といえましょう。17歳の主人公は燃え上がる生命力の象徴であり、何事も恐れない大胆な行動ぶりが生き生きと描かれています。特に主人公・雄一の夢でもあった海洋都市アフロディーテがまさにアルカディアであったことが、読者にもひしひしと伝わってきます。アフロディーテの細やかな描写も新鮮で、まるでアフロディーテの住人になったような気分になれます。しかし、時は残酷なものです。人間不思議なことに、年を取るごとに溌剌さが無くなっていくことが多いですが、アフロディーテも雄一も例外ではありませんでした。だんだんと不利な政治環境に追い込まれるアフロディーテ、親友の死などが重なり、物語はだんだんと悲劇的な様相を帯びてきます。しかし、この物語はただのノスタルジックな物語ではありませんでした。また別のささやかな希望、復活と再生の物語でもあります。新たなアフロディーテの誕生に乾杯したくなる気分です。オススメ。
ひろき真冬のイラストが魅惑的。蔵人の手にかかった傑作SFといえましょうか。山田正紀さんの本を最近よく読むようになったのも、その緻密なプロットと人物描写にあります。『宝石泥棒』以来、SFを感じさせてくれる山田正紀さんの作品にはまってしまったわけですが、今回も期待どおりのSFでした。一人の銀行員の失踪から物語ははじまった。男の妻から調査を依頼された主人公の水野は、大銀行の合併とそれにまつわる青山の土地買収の事実を知る。青山に次々と建築されるポスとモダンな迷宮建築。そこに出没する美しく妖しい美女たち……、めくるめく官能のラビリンスにとらわれた水野は、都市の胎内で恐るべき計画が行われていることを知るのだが……。結構後味は悪いですが、すごく神秘系が入っていてぼくとしては面白かったです。SFというよりも呪術系ホラーといった方がいいかも。しかしよく調べてあって感心します。主人公と協力してくれる仲間たちが、はぐれ者というのがまた素敵であります。山田正紀は世間からはずれた人々を書くのがうまい作家だと思っていましたが、本当にうまいです。個人的には非常に恐いラストなので、ぼくとしてはいやーんな気分になりました。「女は強くて、わがまま」っていうのが、印象的だったかな。
深町眞理子『翻訳者の仕事部屋』(飛鳥新社)読了。ミステリ、SFの翻訳家として有名な深町さんのエッセイ集。ぼく自身、翻訳に携わる方々のエッセイが好きで翻訳の世界や小鷹信光さんの翻訳エッセイ、別宮貞徳さん他のエッセイなどを愛読している。翻訳という仕事が忍耐と根気、日本語能力と外国語能力がいかに必要な仕事か、よくわかっているからだ。特に小説については、翻訳者がフィルターとなって作者のメッセージを忠実に伝えることを必要とすることからもわかるように、芝居にたとえていえば役者としての立ち回りが要求される。プロとして役者に徹することは非常に難しい。翻訳者には過去の読書経験や、豊かな教養と知識が必要とされるからだ。さらに本が好きであること、これが翻訳者の資質として求められるものである。外国翻訳作品で、「意味がわからない」「つまらない」というものは大抵翻訳に問題がある(?)ケースが多いので、翻訳いかんによっては、どんなに面白い作品でも殺してしまう可能性があるので、翻訳者の責任は重い。それはぼく自身が外国翻訳作品を読んでいることが多く、翻訳者の方々とお話をした経験上、「異文化をどのように紹介するか」ということがいかに難しいのか、体感しているように思えるからだ。小説の翻訳者はやはり知識と教養、本への愛がなければだめなように思えた。
深町さんのエッセイは大雑把に言って、翻訳の作法・心得、深町さんの生い立ちから履歴、読書についての3部に分かれている。深町さんはプロ意識に徹した方だということがよくわかった。ひとつひとつの言葉の意味を原文から日本語へ翻訳する作業をミステリのパズルのように当てはめていくさまは、とても気持ちがいい。一つのことを深くきっちりとやるには忍耐力と根気が非常に重要であるということがわかるし、つねにアンテナを広げてどんな仕事でもできるような柔軟さを持っていなければならないことを痛感した。翻訳の作法は翻訳を志す人には参考になるかも。具体例を交えて、深町さん自身がどんな風に翻訳するのか、どういうスタイルで訳しているのかがよくわかります。さらにこの本、深町さんの翻訳リストが掲載されていてお得な一冊。面白いのでオススメ。