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2000年1月の読書感想文


篠田節子『女たちのジハード』(集英社文庫)

 夜、別のところでも話題になっている(笑)篠田節子さんの『女たちのジハード』(集英社文庫)を読み出したらハマる。中堅保険会社に勤める4人のOLたちの生きざまを描いたお話。人生の模索のために奮闘している彼女らの姿がまさにジハード(聖戦)といえるでしょうか。以下登場する4人の女性について、ぼくが嫌悪感を持ってしまった女性と好感度が高かった女性について記しておこうと思います。

 一番嫌いな女性のタイプの人格を有しているのは<紀子>。これは男性にも女性にも嫌われるタイプというか、いじめられるタイプでしょう。もちろん物語の上なんですが、彼女の項を読んでいるとむかついてきました。この話が長ければ読むのをやめていました。彼女が好きだ!という人は性格がとてもいい人なんでしょうね。#やり口が汚い、という意味でも嫌いでした。つまり「自分の人生ということ」について真摯ではないところでしょうか。彼女の場合、ある種自業自得という感じではないかと思いました。

 次に嫌いなタイプが、リサ。ラストの潔さには共感は持てるものの、それまでのやり口が打算的で腹が立ってきました。条件のよい結婚(要するに三高)を模索するところが打算的で、男の財布を狙っている態度ばればれでむかつきました。彼女の打算的な結婚への態度は、同僚の紗織に揶揄されるくらいすさまじいです。家庭環境の問題を差し引いて考えてもあまりよろしくないように思えたのでした。条件のいい結婚なんていうのは、幻想であって(でもあるんだよなー、不条理。)それを期待する態度に腹が立ちましたが、あのラストで好感度が増しました。なので嫌いな女性のタイプとして二番目にランクインしました。

 次に腹が立ったのは、康子。お局さまとなってしまったベテランOLなんですが、その生き方や同性に接する態度には共感は持てるも、「男性に対する態度」があまりにもいい加減なのでむかつきました。どういいかげんなのかは読んでいるとわかるのですが、結局自分の都合のいい解釈なのであまりいただけません。彼女の経済的自立を目指す姿には非常に共感していたのに、男性面での付き合いでマイナス。無農薬野菜を使ってのビジネス展開の話は女性ならではの視点でとても面白いです。人生設計がほぼ確立している女性の姿(特に30代半ばの女性の姿)として高潔さを感じました。

 結局、紗織が一番好きなキャラクターで好感度大です。彼女はバリバリのフェミニストなんですが、人の生き方に囚われずに自分流で人生を切り開く姿に好感度大です。得意だという英語の力を伸ばす方向で、留学をして奮闘する姿に感動しました。そういう意味で、紗織みたいに奮闘する女性は独身者の自分としては彼女が奮闘して得ようとするものがなんとなくわかるので、とてもよかった。#でもTOFELは一ヶ月に一度きちんとスコアが戻ってきます。3ヶ月っていうのは遅すぎになりまーす、というつっこみはアリ?


北原尚彦『SF万国博覧会』(青弓社)

 北原尚彦さんのこの本、すごく面白かった!SF道を極めんとしようとしている人には必携のアイテムでしょう。しかしこんなにSF関連の本があるとは思ってもいなかったです。『SF万国博覧会』は本当に面白い本なので、オススメ。ぼおっと読んでいるだけでも楽しめるところがいいです。なんというか、マニア心をくすぐるところがにくいです(笑)。これは俺のためにある本なのか?と一瞬思ったり。一番気になったのは、各国別SF作品の紹介の項。ぼく自身ロシアSFあたりに知らない本が多いのですが、特に白水社あたりが盲点だということが発覚。また果てしないクエストへと行きたがるもう一人の自分(謎)を押さえるのに懸命でした。恐るべし、北原尚彦……。


レイ・カミングス『宇宙の果てを超えて』(ハヤカワ文庫SF)

 イーガンの『順列都市』(ハヤカワSF文庫)と同時に読んでいたのだが、イーガンはどうもとっかかりが悪くて中断。読み進めるうちに面白くなってきたカミングスを読み終えてしまった。もちろん書かれた年代、テーマ等すべてが古びてしまっているのだが、読み応えがあった。たぶんストーリーが単純明解だから、面白かったのだろう。「天才的な博士が考えついた宇宙船に乗って宇宙旅行へと旅立った。その途中、精神感応力を持つ美人姉妹(お約束)の盲目の妹が助けを呼ぶメッセージを受け取り、その星へと到着する。そこには人間型種族が存在し、そこそこの科学力を持っていた。この社会は女性が差別されており、反発する女性たちによって内乱がおきていたのだ。そんな中、地球人である主人公たちが解決策を練って、この星の危機に対処するのだが……。」というのがあらすじ(笑)。こういうわかりやすいSFは最近2冊読み終えたヴァン・ヴォクト以来。脳みそを使わないで楽しめるのでいい。たまにはストレートなヒロイックSFもいいと思った。


ティム・パワーズ『アヌビスの門』(ハヤカワ文庫FT・上下)

 再読の『アヌビスの門』は、以前読んだときに疑問だった部分が氷解し、「西洋伝奇SF」という中村融さんの解説に納得。やっとブレイロックの『ホムンクルス』(ハヤカワFT文庫)、『ケルヴィン卿の機械』(未訳)やジーターの『悪魔の機械』(ハヤカワFT文庫)とは雰囲気が異なる改変未来の比較ができた。ブレイロックとジーターを読んでおくと『アヌピスの門』の面白さが倍増するでしょう。各人の作品にアッシュプレスという共通の登場人物がおり、役柄を比較する楽しさがある。ちなみにこれはブレイロック、ジーターを読み終えた人だけがわかる遊びなのだ。

 『アヌビスの門』は物語の構成が非常に優れており、あまりの完成度の高さに読了後しばらく呆然としてしまった。ドイルの物語をもっと読みたいと思った人も少なくはないはず。タイムパラドックスものの傑作として読み継がれて欲しい本であり、スチームパンクが好きな人は絶対読まなければならないお話。万人に安定してオススメできる本でしょう。ハヤカワ文庫FTから出たせいで売れず、品切れになってしまった悲劇の本になってしまいました。大伴墨人氏の擬古典調の訳文も19世紀ヴィクトリア朝の雰囲気を十分に伝えている点も見逃せない。


森下一仁『思考する物語』(東京創元社)

 論理展開の明解さが心地よい。SFをセンス・オブ・ワンダーを軸に据えて議論を展開する点に共感。他のSF評論集を含めて、もう一度自分の読書を見なおす上でとても有用でした。この本を読んで現在、SFについてブレインストーミング中。特に有用だと思ったのはSFを読む上で何をポイントとして読むべきか、そして他のジャンルとはどのように違うのかなどの問題を考えるにあたっての手がかりを与えてくれる点にある。人工知能の理論などを用いることで森下氏は、SFの構造を違った視点から捉えなおしている。たとえばケイト・ウィルヘルムの『杜松の時』(サンリオSF文庫)のフェミニズム的な読み方については、ぼく自身まったく気づいていなかった。森下氏の本のおかげでウィルヘルム作品を読む楽しみが増えた。森下氏の本はSFをある程度読んだ読者に強く勧めたい1冊。


眉村卓『ぬばたまの…』(講談社文庫)

 筒井康隆の『脱走と追跡のサンバ』(角川文庫)を髣髴させる話。多元世界が複雑に交錯しているところが面白い。『ぬばたまの……』ような世界を想像するだけでも怖い。黄泉の世界、すなわち地獄のような世界であり、自分たちが悩めば悩むほどこの地獄のような世界が生成されることを考えるとさらにおぞましい気分になる。ほら、その瞬間にも……。


五代ゆう『はじまりの骨の物語』(富士見ファンタジア文庫)

 かしばさんさんが薦めてくださった五代ゆう『はじまりの骨の物語』(富士見ファンタジア文庫)を読了。北欧ファンタジーの大傑作。米田仁士画伯のイラストも魅惑的でとてもよかった。神話モチーフとしたファンタジーが好きな人は必読。

 ミットガルドに攻めてくる<冬の軍隊>と戦っているとき、美しき<炎の華>ゲルダは、師であると同時に恋人のアルムリックに裏切られる。そこからの物語の展開が非常にダイナミックなところがイイ。アンビバレントな彼女の心と純粋無垢な少年王との出会いと別れなど、連続して彼女に襲いかかる悲劇と神々の黄昏(ラグナロク)の物語として楽しめました。これが五代ゆうさんのデビュー作で、デビュー作の水準だとは思えないくらい完成された物語でした。


J・G・バラード『時間都市』(創元推理文庫SF)

 バラードのオススメ本ということで、カナザワさんからの薦められた本でした。収録作品で一番よかったのは、幻想的で山尾悠子さんも愛したという「時間の庭」という短編。<時間の花>が咲き乱れる美しき庭園で、伯爵が時間の花を切り取って、蛮族の襲来を回避しようとする話……だけではこの物語の素晴らしさをまったく伝えていないので、ぜひ読んで味わってみてほしい。他の短編も印象に残るものが多かった。時間を知ることが犯罪になってしまう都市で、時計に魅入られてしまった青年を描く「時間都市」や上下左右に果てしなく拡大する都市の謎を描いた「大建設」の二つの短編もオススメ。バラードの作品には内的宇宙の果てしない広がりを感じさせる。この広がりの魅力を知ってしまったぼくは彼の作品をもっと読んでみたいと思った。


貴志祐介『青の炎』(角川書店)

 主人公の少年の心理の変化がとても切なくていい感じ。状況設定で勝ったかなと思う作品。しかし今までの貴志作品とは違い、インパクトはあまりない。主人公の少年が年齢の割に冷静すぎるところがマイナスポイントになってしまった。悪い部分を除けば、安定して読ませる作家だと思う。