今回のSFバカ本は収録作品のレベルも高く、安定して読むことができた。シモネタをバカと間違えているような作品は減少し、いままでのSFバカ本の中ではたぶんぴか一の出来ではないかと思う。超オススメなのは牧野修「電撃海女ゴーゴー作戦」、東野司「つるかめ算の逆襲」、いとうせいこう「江戸宙焔熱繰言」の三篇。逆にイマイチだったのは明智抄「笑う『私』、壊れる私」、久美沙織「手仕事」の二篇。
牧野修「電撃海女ゴーゴー作戦」は海が謎の物体によって穢れていくのを防ごうと村人たちが必死になって、村人たちの召還歌で召還された海女たちの活躍ぶりを描いた変なSF。物語がとろけて行く感じが非常にシュールでいい。東野司「つるかめ算の逆襲」はこの中ではベスト、たぶん今年読んだSF短編の中では5本の指に入れてもいいくらいの素晴らしいバカSF。小学生時代に連立方程式を知らなかったぼくたちが習ったつるかめ算にまつわるラブホテルで起こった怪事件を、解決するというもの。まじめに考えてしまいました(笑)。いとうせいこう「江戸宙焔熱繰言」は文句無く面白い。火星人襲来をテーマに活劇風にアレンジした感じが実に小気味よくて、面白い。
逆に明智抄「笑う『私』、壊れる私」はわけがわからなかった。これをSFといわれれば、まあSFなんだろうけれども内輪ネタをテーマにしているのでよくわからない。変になっていくところを楽しめ?というのであれば楽しむことができるかもしれないけれども、よくわからない。まったく楽しめなかった。久美沙織「手仕事」はタイトルから想像した通り、シモネタものだった。エロティックなネタがかなり濃厚すぎたため、自分のテイストに合いませんでした。そのほかにも気になった点として、提供した男が病気にかかっているかどうかなど、物語の本筋とは外れる部分で悩んでしまいました。久美沙織さんにしてはクオリティの低い作品だったような気がする。
他のSFバカ本とは一味違って、なかなかレベルが高い。SFバカ本をこれから読もう!と思っている人はこれから読むことをオススメしたい。バカSF入門として最適な本ではないかと思います。
この後、不可解な<古代文字>の構造(一種のメタ言語であった)の分析が進むにつれて、神の正体も徐々に明かになる。最後までこの神の正体がよくわからない点が素晴らしい。姿無き敵をこのように描いたSFを読んだのは久しぶりでした。機械翻訳のをテーマにしたSFはケイト・ウィルヘルムやワトスンのSFにも出てきたので、『神狩り』のネタ自身に対する驚きはあまりありませんでしたが、発表年度を考えると山田正紀の早熟した才能を見て取れる。神との戦いをテーマにした野心作の傑作。山田正紀ファンもファンでない人も安心してオススメできる1冊だ。
「宇宙生物」がテーマの異形コレクション15冊目。SF系作家の人たちが大勢寄稿しているために、安心して読むことができた。全体的な感想としては、『トロピカル』と比べるとやや落ちるかも。しかしながらレベルの高い短編も収録されていて、それらの作品は読む価値はあり。特に山田正紀さんが「一匹の奇妙な獣」の続きの物語を書いてくれることを希望したい。印象に残って面白かった短編を5つ挙げると以下の通り。収録順に、森下一仁「黒洞虫」、山田正紀「一匹の奇妙な獣」、石田一「破滅の惑星」、友成純一「懐かしい、あの時代」、堀晃「時間虫」。森下一仁さんの「黒洞虫」はブラックホールにまつわるある不思議な生き物についてのSF。ブラックホールの近くにいる不思議な生物、というアイディアに酔わされました。山田正紀さんの「一匹の奇妙な獣」はカフカの『審判』の引用から物語が始まる次点ですでに面白そうだと思っていたところ、やはり傑作でした。哲学的用語を駆使して一匹の奇妙な獣を監視し、追うエポケ−号の人々、言葉と存在の問題が複雑に絡み合った形のメタ言語SF。最後もカフカの物語で締めるのが素晴らしい。『宇宙生物ゾーン』収録作では一番の傑作だと思う。石田一さんの「破滅の惑星」も面白い。単純な宇宙探検ものだと思って読んだぼくは、だまされました。物語の構成がとてもうまくて、あっと驚かされます。ラストのオチがなければ、そんなに驚かなかったでしょう。友成純一さんの「懐かしい、あの時代」は友成作品には珍しくキチクな話ではありませんでした。当初はただのノスタルジックな話なのかと思いきや、実は知られざる狂気の原因があったということを、ある場面で明らかになるのだが……現実にあった出来事だったとのことで、非常にリアルで恐ろしかった。堀晃さんの「時間虫」に爆笑。バカハードSFとして、笑いました。しばらくの間、トイレに行きたくなくなってしまいます(笑)。
逆にダメなのもあって、田中啓文さんの「三人」はオチを考えると「うーん……」と思った。三人の乗組員たちの視点が切り替わって行ったり、乗組員たちがとる行動については、かなりディック的な世界で面白いんですが、妄想とはいえいくらなんでもひどいと思う。男性乗組員がなんでそんなことをしているのかという動作の意味づけがよくわからなかった。枚数を稼ぐために、こういう形になってしまったのであればショック。「オヤジノウミ」や「新鮮なニグ・ジュギベ・グァのソテー。キウイソース掛け」のようなあっと驚く破天荒さと狂気の毒が「三人」にはないのが非常に残念。次回作に期待。
向こうでは有名なエロチックホラーのアンソロジーの抄訳(原著の三分の一が都合上カットされたらしい。)である。作家は有名どころから日本では紹介が進んでいない人たちまで収録されており、バランスがとれたいいアンソロジー。もちろんエロチックホラーなので、下劣きわまりない(誉め言葉)。
中でもグレアム・マスタートン「変身」、F・ポール・ウィルスン「三角関係」、デイヴィッド・J・ショウ「赤い光」(の世界幻想文学大賞短編賞部門受賞作)がずば抜けて面白い。他の短編も良かっただが、この三つにはかなわない。「変身」は読み終わった後、ぞくりとする感覚があった。ミステリアスな美女に出会ったサラリーマンがそのミステリアスな美女と(自主規制)という話なのだが、この美女がどういう存在かを知って、オチまで読み終えたときの怖さは筆舌に尽くしがたい。実際にありえそうな感じのためか、読後のインパクトが強かった。ウィルスンの「三角関係」は身体に先天的な障害を持つ女性の性的願望の物語。これもラストでびっくり。かなり危ないような気がするんですが……。ショウの話を読むと芸能人であることの大変さ、存在意義がネタになっているので面白い。古来からこういう話は多けれども、ラストではかなり驚かされました。この3つがとにかく面白いので、オススメ。風野さんとも、かなり面白かった作品が重なっていました。抄訳エロチックホラーアンソロジーとしての水準は高い。
さくさく読めるSFでした。月面都市を舞台にしたジュヴナイルもの。「ポール少年は巨大企業LAPに実験的にアンドロイドの両親をあてがわれ、元気に成長していた。ポール少年は月面都市の地下に住むルナティカンと呼ばれる人々の捨て子だった。ルナティカンは月面都市で差別され、軽蔑されていた。そんな人道に反するような企業の養育方法に問題があるとして、地球から取材にやってきた女性作家リビーはLAPに雇われた私立探偵に出会い、ポール少年の出生についての情報を集めることになる……」というのがあらすじ。
この話は世界設定が面白いと思いました。巨大企業と差別的政策の二つが蔦のように絡み合っていて、月面都市の掟となっている点が面白い。アンドロイドを実の両親として慕うポール少年が、自分の母親が別にいることを知って苦悩する姿がいじらしい。VIP待遇で好き勝手し放題だったポール少年が、急におとなしくなってしまうところに11歳の少年の苦悩が見えて、共感できました。光文社から出ている神林さんの本は、当たり外れがあるということだが、これはあたりの方の作品。子供が親を選んで生まれてくることができない、というアイディアが十分に生かされた佳作でした。
『おもいでエマノン』(徳間文庫)に次ぐ、40億年の記憶を持つ少女の放浪の物語。今回も心にじーんとくるようなお話が多く、感激。今回のエマノンの旅は、化学兵器の漏洩によって死の地域となった場所に行ったり、小学校時代の友達の呼びかけに応じたりと、あいかわらずさすらいつづけている。エマノンはナップザックひとつで、定住の地もないまま今後もさすらい続けるでしょう。エマノンの秘密は『おもいでエマノン』で触れられているので、ここではあまり触れません。読者の中には2作品を通じてエマノンの実在を信じてしまう人もいるかもしれません。もしかすると、ぼくたちはたまたま不運にも彼女と出会っていないのであって、世界のどこかでエマノンと出会っている人も存在しているのではないかと思う。莫大な記憶の流列が記憶され、蓄積されるという気分はどんなものだろうか。そんなことを想像するだけでも楽しいひとときが過ごせることでしょう。エマノンは自然と調和し、やさしい人たちの気持ちを汲み取り、人々を開花させる役割を見事に果たす。エマノンの純粋さが少しでも多くの人たちに伝わればいいなと思った。
読み終えて疑問に思ったことがある。エマノンは確かに40億年の間の記憶をスプールしているが、体は普通の人間の女性の体なはずで、猛毒の大地に入って弱らないのか?とかそういう肉体面での超越性が保証されているのか?という謎について。たとえば、途中で殺されたりした場合はエマノンはどうやって復活するのか?などの疑問があるのですが、どなたかご存知の方はお教えください。
「COSMOS」ジュヴナイルのシリーズには中尾明さんや小隅黎さんらも書いているのが見逃せない。しかし残念なことにソビエトが崩壊した今、この小説の面白さはかなり半減してしまった。モスクワに激突することが予想された外宇宙からの謎の光速物体αをソビエトは核ミサイルで撃墜してしまい、そのαから光が飛び出してオーストラリアへと落下するという話だからだ。悪役がソ連・正義の見方がアメリカという役割が割り振られてしまっているので、冷戦時代を知らない人たちが読んでもなんのことだかわからないかもしれません。ソビエトスパイ物と同様、環境が古びてしまったことは否めない。だから無理して読む必要はないでしょう。そして全体として、アクション小説になっているのが気になった。主人公の少年がキャラ萌えしていないので、ジュヴナイルものとしては何となく物足りない。
しかしながらこの作品はメインのアイディアが面白い。面白いと思えたアイディアとは、天才チンパンジーと保護された猫型宇宙人とのコミュニケート手段の部分。音声でコミュニケートするという従来のイメージとは異なり、実は○○○でコミュニケートするというアイディアには驚きました。これはあとがきにもあるように猫好きの氏だからこその発想だと思った。異性人と人類がいかにお互いの意思を伝達し合うかという点に対して面白いSF的解答とアイディアを提示している。こういうアイディアはとても面白いので大歓迎だが、いまオススメするとなると古びてしまっていて、ちょっと薦めることができません。ただすぐに読めてしまうので、他に読むものがないという人や、軽いものを読みたいという人には最適な読み物だと思う。
倉阪鬼一郎、牧野修と続く異形招待席書き下ろし長編ホラーの第三弾!読了後の感想はひとこと。クーンツを意識したB級ホラー、です。読み終えて真っ先に、クーンツの『ファントム』を思い出しました。作者もあとがきで諸星大二郎の「生物都市」の影響があったと述べている。この作品は一言でいうとクーンツの『ファントム』と友成純一の『凌辱の魔界』(幻冬社アウトロー文庫)の一部設定とベアの『ブラット・ミュージック』(ハヤカワ文庫SF)をリミックスした感じ。この話、多少筋を変えるとなんと、坂口尚の『Version』(潮出版社)にそっくりでした。
これだけ似たような話があると展開が予想できてしまう点が残念。ただし、この手の本を読んでいない人には楽しめるのではないでしょうか。あとB級ホラーの雰囲気(犠牲者のこまやかな描写)で作品自体を盛り上げることには成功していて、非常によかったのですが、ラストが尻つぼみなのがダメ。ただし、流れるような情景描写や個々の人々の想いが美しく描かれているので、さくさく読める。怖くないホラーでした。過去に出た長編2作と合わせて読んでみるとわかったのですが、このシリーズは怖くはない話が多くて、むしろエンターテイメントに徹している話が多いと思いました。つまりクーンツやクライトン的な手法を積極的に取り入れて、小説を書いているという点は実験的で面白い。まさにサイフィクト。出張等でホラー系読み物を読みたい人が、読み捨てるためにあるような本でした。
『神獣聖戦』同様、イマジネーションの奔流という言葉がぴったりな連作短編集でした。痴呆性老人症が進行していた老人たちの住む現実世界と奇怪な怪物たちが生息するジャンク世界の若者たちとが交互に錯綜している物語は構築されている。老人と若者の相互関係は、五人の登場人物(ケン・ユリ・マモル・ナオミ・アキラ)の回想録という形で明かされる。
ジャンクの世界は小林泰三さんの「ジャンク」と通ずるものがありました。痴呆にかかってしまった5人の老人が古いジュークボックスの火事に巻き込まれて死亡するという話と、言葉では説明しえない世界でのジャンク集団と生体ジャンクメカ軍団との戦いを描いた「悪夢世界」の交錯の仕方がSFでした。ジャンク世界での魅力の一つに、気色悪い生体臓器のパワードスーツに乗って戦う5人の姿と行動様式にありました。臓器が利用可能なパーツであるというアイディアはとても面白い。戦闘トランスレーターを使って認知し得ない敵たちが1950年代の豊かさの象徴であったジャンクフードやアメ車の形に転換される。ジャンクフードたちとの闘いは、なんとも形容しがたい不思議な味わいがある。この世界の謎は最後で明かになる。ランガー(生きている言語のこと。この言語の謎が解ければこの世界の勝者となれる)の正体が明かになったとき、実は(以下自主規制)。自我の問題、言葉の話、異形との戦いなど、SFの要素をふんだんに積めこんだジャンクボックスのようなSFでした。山田正紀を読んでいない人にはいきなり薦められない本ですが、山田正紀作品が面白いと思いはじめた読者には安心して薦められる。この本はあまり古本屋でも見かけないので、山田正紀作品クエストのキキメになると思う。
イマジネーションの奔流という言葉がぴったりな短編集。とにかくどんな世界なの?と想像するだけでもわくわくしてしまう。
非対称航行(脳からの航宙刺激ホルモンの分泌による超光速航行のこと)により、人類は何百光年もの距離を一瞬のうちに跳躍することを可能とした。人類はこの航法に耐えるために、鏡人=狂人(M・M)という新人類になる措置をうけて、背面世界(質量ゼロの世界)に突入した。その結果、非対称航行による重力波により、地球は壊滅的な打撃を食らい、人類は滅びてしまった。そんな中、この特殊な航行のためのホルモンを出すことができる「脳(ブレイン)」のコピー脳である「レイン」に異常が発生した。「レイン」の異常を食い止めるべく、M・Mたちは奮闘するのだが……。
うーん、すごい。『宝石泥棒』『螺旋の月』(ハルキ文庫)とはまた味わいが違い、イマジネーションの奔流で酔わされたという気分。ギリシャ神話の世界が出てきたかと思えば、日本神話が出て来たり、さまざまな要素が紡ぎあって物語が構築されているさまは天才的。神話で再構築される幻想世界の不思議さは、蟲惑的でした。ギリシャ神話をベースにした短編は3人の男たちが牛と闘牛しようとする話であり、日本神話をベースにした短編は国造りの話でした。現実と幻想の境界を紡ぎ出す幻想生命体の作り出した世界に備わる眩暈の感覚を味わうのが『神獣聖戦』の醍醐味ではないかと思った。
小松左京さんの『果てしなき流れの果てに』(ハルキ文庫)みたいに、壮大なテーマを取り扱っているところがきっとSFマインドを揺さぶったのではないかと思う。言葉ではうまく表すのが難しいが、「すごい!」という気分が心の中で広がる感じ(拡散して、浸透して行く感覚)。こんな感覚のあるSFを読めたときは、本当に幸せ。外国人作家だとA・C・クラーク『2001年宇宙の旅』(ハヤカワ文庫SF)が該当するのではないかと思う。
新書サイズ(ノベルズサイズ)なので、もしかするとブックオフのその他新書コーナーで見かける可能性があるかもしれません。この短編集は村田基さんの第二短編集。ホラー以外の短編を集めたというだけあって、割とSF的な話が多い。子供をテーマにした短編が多く、これは面白い。短編集の感想は書くのが難しいのだが、これは本当にオススメ。うまく言葉に伝えられないけれども、特に「創作者」は機会があれば読んで欲しい。村田基氏が読者に伝えたかったことはぼくたちの心にずしりとくる。対比の対象があることで、メッセージが強調されて感動を生んでいるのではないかと思う。