銀河通信のダイジマン氏も誉めていたので、読んでみました。ゼナ・ヘンダースンの作柄が好きな人にはオススメ。「大型トラックとの衝突事故で両親を失ってしまった赤ん坊は心優しい夫婦によって引き取られる。彼女はベティアンと名づけられる。しかしながらベティアンは滅び行く宇宙人の種族の一員だったのだ。一方、生殖能力が徐々に失われつつあるアミオ族の人々はベティアンとその両親が死んだものだと思っていたのだが、あるとき彼女が生きているのではないかと思い、地球に戻ることになる。」というあらすじ。
矢野徹氏の翻訳がみずみずしくて、さくさく読めました。地球人として育てられた宇宙人の女の子の内面的葛藤(思春期の少女の心の動きとか)が物語の大半を占めますが、そんな彼女の苦悩や喜びがひしひしと文章から感じられる。アミオ族から真実を明かされたベティアンが果たしてどのような選択をするのか、最後に明かになる。このラストが切なくていい。最後に○になって○○に帰るほうを選んだラストは、読み手の共感を得られるはず。このラストだからこそ、名作なのだと思った。新井苑子さんのイラストがベティアンの世界のいい面を引き出していて、イラストを見ているだけでも楽しめる。残念ながら本書は品切れ中で、古本屋でもあまり見かけない。ウェブ検索でも感想等があまりひっかからないので、ぜひ読んだ人は感想をあげて欲しい。『槍作りのラン』も近々読みたい。ぜひクリス・ネヴィルも復刊してほしい。
ノベルズ版にはなかった解説(伊藤昭氏による)があり、このあとがきを読みたかったので文庫版で読んだのだ。M・M(鏡人=狂人)と悪魔憑き(デモノマニア)との時空をスケールとした壮大な戦いを描いた<神獣聖戦>シリーズ第二巻目の短編集で、Iを読んでいるさらに楽しめる。<神獣聖戦>の世界を楽しみたい人はIも併せて読むべし。登場人物の名前が物語の重要な鍵になっているので、注意して読まないと物語に秘められた真の意味を見過ごす可能性も出てくる。表題作「時間牢に繋がれて」は奇妙な殺人事件を調べにいった中立機関(M・M(鏡人=狂人)と悪魔憑き(デモノマニア)の戦争にかかわらない中立機関)のエージェントたちが巻き込まれる不可解な謎を解くという話なのだが、事件のトリックに唖然とする。#○オチなので、「ギャフン!」と思う人も多いだろう。物語全体を通じて、いままでばらばらだった部分が感覚的につながってきて、全体をうまく見渡すことができたという点で、非常によくできた短編集だと思う。ただ、M・Mの姿がちょっと想像できないのが残念。言葉のイメージだけでは限界が出てきてしまうのは仕方が無いと思いました。三巻目にあたる《鯨夢!、鯨夢!》と長編『魔術師』を読んで、この神獣聖戦の世界をより深く味わいたいと思う。
コニイの翻訳などで著名な那岐大氏の訳が見事な異世界ファンタジーもの。ブラケットはエドモンド・ハミルトンの奥さんで、日本語に翻訳されている作品の割合はファンタジーが多い。この『リアノンの魔剣』はハネス・ボグ的のような雰囲気の作品でした。「考古学者で地球人のカースはある火星人から、火星の伝説にも現れる<リアノンの魔剣>と呼ばれる剣を購入する。その火星人の盗賊の案内で、発見現場である墳墓へと向かう。しかしそこでカースは火星人に欺かれ、不気味な黒い影が存在する墳墓に閉じ込められてしまう。カースは不思議な力によって昔の火星へとタイムスリップさせられてしまう。彼がそこで見たものは……。」
右も左もわからないうちに主人公は囚われて奴隷の境遇に陥ってしまう。しかし不思議な力に助けられて逆に敵の姫を捕らえて人質にしてしまうのだ。この逆転劇はバローズやハワードの作品の影響が見られて、非常にわかりやすい。そういった意味でこの作品はカーター、ベイジなどのヒロイックファンタジーの潮流の一冊だと思う。女性が書いているということも作用してか、肉体だけで解決するという雰囲気ではないというのが目新しい。さらに主人公がリアノンという神に体をのっとられるという部分が従来のヒロイックファンタジーとは異なる。ブラケットの作風は男性的なので、男性作家が書いたヒロイックファンタジーのような感じも受けました。諸星大二郎さんに漫画化してもらいたいなぁ。期待していなかった分だけ、面白さが倍増しました。
ハリウッド映画をネタにしたユーモアSF。ハリー・ハリスンはかなりの皮肉家(たとえば『宇宙兵ブルース』『銀河遊撃隊』などの作品に見られる)なのである程度予想はしていた。しかしここまであからさまに皮肉られると、ユーモアSFを通り越してハリウッド批判SFのように思える。小説のテンポは軽いので、さくさく読める。さらに加えてモンキー・パンチのイラストが物語にマッチしている。「経営難に陥った映画プロダクションの監督がタイムマシンを開発したという博士の助力で、ヴァイキングの闊歩する昔のイングランドで映画を撮る」というお話。タイムパラドックスの問題も一応理論がついているので、違和感なく読める。タイムマシンの理論は相当お馬鹿なのだが、現地人とコミュニケートして映画をつくるというアイディアを楽しむためにある娯楽SFだと思う。翻訳家の中村融さんも960年代以降の作品で読んで楽しめる一冊として取り上げている。1994年の復刊フェアで復刊していたので、まめに探せば見つかるかもしれません。
非常にリーダビリティが高い1冊だった。流石ディッシュ。P・S・ビーグルの『心地よく秘密めいた場所』(創元推理文庫)とは違い、ブラックユーモア溢れる変なホラーだった。浮気現場に掛けつけた夫によって殺されたヒロイン・ジゼルの死後の不思議な世界にをシニカルな筆致で描いた実にデイッシュらしい作品。ホラーであるといえるし、ファンタジーとでもある。この作品はたぶんダークファンタジーではないかと思う。デイッシュの毒々しい設定が、読者をだんだん狂気の物語へと引きこんで行く。
途中まではなんとなく説教くさい物語だと思ったのだが、霊的な存在であるジゼルが○○を宿してしまうというシーンにびっくり仰天。そして○○が犯した恐ろしい計画犯罪も気が狂っていて、おかしい。リチャード・マシスンの『奇蹟の輝き』(創元推理文庫)の死後の世界とは違った世界をホラーという形式で描くことにデイッシュは成功したと思う。この作品は、苦味のきいたブラックコーヒーみたいな味わいがある。作品自身面白いのでお勧めの一冊なのだが、品切れになってしまったようなのであまり売れなかったみたいだ。シニカルなデイッシュ作品が好きな人にはオススメ。
一言で言えばポール・アンダースン『大魔王作戦』みたいな話。この物語の舞台は、魔法が科学よりも発達した世界。「エンジェルズ・シティ(ロサンゼルスのアナグラム)の環境保護局に勤める役人フィッシャーは、朝けたたましい電話鬼の呼び出し音によって起こされる。デヴォンジャーにある魔法処理場で有害な魔法が漏洩しているという情報を受けて、調査を開始する。その結果、魔法処理場の周辺地域には吸血鬼の赤ん坊が3人、狼憑きの赤ん坊が2人、そしてアブシュキア(魂を持たない赤ん坊)が3人も生まれているという。フィッシャーはこの事実を徹底的に調査していくうちにある恐るべき事実を得る……。」
物語中の宗教の問題などがうまくまとめられていました。アメリカ大陸が舞台のせいか、アステカ帝国で崇拝されていた神々(ケツアルコツドルなど)が陰謀をたくらむというお話にしあがっているのはお約束。ミステリ風味も効いているので、ファンタジーが苦手という人にもオススメできると思う。環境問題をうまく利用してファンタジーに仕立たタートルダヴの着眼点は素晴らしい。謎の放火事件、企業の守秘義務、環境局の査察、アプシュキアの発生等がうまくまとめられていて面白い。恋人を助けるシーンは冥界への旅を彷彿させて、いい感じでした。物語の流れにあまり起伏がないので、途中で投げ出してしまう人も多いのではないかと思った。
画家ピークのイラストも楽しめるお得な一冊。行方不明になっている伯父さんからの絵手紙という形式で、物語は語られる。訳者の横山茂雄さんの手書き文字とタイプライター文字が愉快。伯父さんがタイプライターにだんだん慣れてきているのがわかるのがいい。
白いライオン(表紙の絵にもなっている)に魅せられた伯父さんが亀犬ジャクスンと一緒に冒険をする話。絵と活字が一体化した物語を楽しみました。<ゴーメン・ガースト>三部作にもピークのイラストが挿入されているのだが、この本のイラストは重々しさが漂う<ゴーメン・ガースト>のイラストとは異なり飄々としている。絵物語というスタイルのせいもあるかもしれませんが、ピークが本当に楽しそうに描いているようすが目に浮かびました。ピークの想像力の豊かさ、物語の破天荒さも含めてとても魅力的な本でした。訳者の横山茂雄さんは翻訳に苦労されたと思いますが、訳者も楽しんで訳しているさまが垣間見れてよい。ピークの違う一面を垣間見たい人は是非一読をオススメしたい。
この作品が絶版なことを嘆きたい。こんなに面白い本が書店の棚から消えてしまったのは残念だ。表題にある人工クラゲが大活躍するんですが、これが一匹いたら世の中はがらりと変わってしまうだろうなと思うくらい便利な人工生命体なのだ。主人公の「僕」が事情を飲み込めないうちに、自称恋人という女性と一緒に記憶探しをする旅は奇妙なれど物悲しい雰囲気が漂っている。『昔、火星のあった場所』(新潮社)でも感じた懐かしい感じなのです。作品全体にブラットベリ的な叙情感が溢れている。クラゲと一体化することにも不思議と恐怖感もない。むしろ一体化できたらどんなにいいかと思った。記憶と肉体の関係について色々と考えてしまうSF作品でした。ディックのテーマにも通じるものがあり、デイックファンは必読。森青花さんの『BH85』(新潮社)と比較すると面白いかもしれません。
下手なホラーよりも恐ろしい……。水滸伝のパロディとはいえ、あまりのおぞましさに一時期読むのを中断していたのを我慢して読みきる。筒井康隆の怖い所は生理的な嫌悪感を呼び起こす文章にあると思う。ある意味筒井作品の集大成ともいえる妄想ホラーの傑作だと思う。
E・R・BのSF冒険世界へようこそ!の長田さんから記念ヒット本として頂いた本。読み終えて思わず「ギャフン!」とうなってしまう。最近偶然だとは思うが、ギャフン落ちの本を読む機会に恵まれており、この本もまたギャフンSFだった。「優秀な生物博士であるマクスン教授は、生命の神秘を探るべく日々実験を繰り返していた。そしてついに人工人間をつくることに成功する。しかしながら、その実験の失敗物の処理で誤解を受けないように教授はボルネオ沿岸の小島に研究所をつくり、人造人間の開発を続けた。醜悪な風体、虚弱な知能を持った出来そこないの人造人間の製造こそ成功するが、完全ものはなかなか成功しない。13号目にしてやっと教授は完全無欠の人造人間の製造に成功した。しかし狂暴な首狩り族の酋長が教授の美しい一人娘ヴァージニアを誘拐して、自分のものにしようとたくらんでいたのだ……。」
この本自体はハヤカワ文庫SFで中村能三氏による訳で読めるのだが、「バローズに憑かれた男」厚木淳氏の訳でまず読みたかったのだ。バローズには不思議な魅力があって、一度読み始めると止まらなくなってしまう。そして映画を思わせるようなプロットのうまさが一気に読み終えることに拍車をかけているのではないかと思う。美しい娘を巡っての陰謀が二重、三重に絡み合った厚みのある物語世界に読者は魅了されるだろう。バローズの作品には、映画を楽しんでいるときの高揚感が存在する。この『モンスター13号』もそのような高揚感溢れるシーンが満載である。13号と原住民の戦い、オラウータンと13号の戦い等、見せ場もたくさんある。純粋な愛のために戦う13号に読者は感情移入してしまうだろう。さらにオチのギャフン度が鮮烈すぎるため、一度読んだら絶対に忘れることはないだろう。ミステリ的なトリックなのだが、このトリックはまるで新本格のミステリのようである。物語の展開の小気味よさ、リーダビリティの高さといい、何らかの形で復活してもらいたい。ただし人種偏見的な描写もあるので、この点が増刷を許さない理由なのかもしれない。SFミステリとしても、冒険活劇としても十分面白いので、古本屋で見かけたら購入することをオススメする。
購入したのは古書日月堂ご主人のインタビューが掲載されていたため。古本に関するエッセイが主。岡崎さんとは本の守備範囲が違うので、こういう本を見つけた!という喜びのところに同じ古書を集める友として共感する部分があった。たとえば均一棚の中に自分が長年探していた本があったときの喜びは収集カテゴリーが違っても同じなので、素直に喜べる。さらに新たな界隈に行くと古書店に寄りたくなる古本者の性が書かれていて、うなづきながら読んでしまう(笑)。日月堂さんを知っている人にとっては古書日月堂ご主人のインタビューが目玉だと思う。
大学で昼飯を食べながら一気に読み終える。これは……おもしろいよ!すぐに読まなかったことを悔やむ。ハートウォーミングなSFでした。リーダビリティが高く、ストーリー展開も小気味がいい。『ブラット・ミュージック』、『生物都市』や『夢魔のふる夜』などの作品とネタが被っている。しかしその既知のアイディアを「毛生え薬」ひとつでまったく違ったストーリー軸に乗せて読ませてしまう作者の力量に感心した。「新薬の毛生え薬の開発に従事する研究員毛利は新しい毛はえ薬の効力を試すために、試作品の状態の一本を商用のものとすりかえて、売り出してしまう。そのことを知らないで使った男性の頭には勢いよく髪の毛が生えてきた。ところが毛はえ薬はとんでもない物質で開発されていたのだった。」というのがあらすじ。
懐かしい気分にさせるSF。科学的なアイディアも面白いし、同化できなかった人たちと同化してしまった人たちとの乖離の切なさがいい。物語自体は諸星大二郎の「生物都市」そのままなのだけれども、愛している人たちと同化できなかったつらさが悲痛ではなく、切々と描かれているのがうまい。全体的に、あっけらかーんとしているので、悲劇的だと思えるテーマなのに、楽しい気分で読めた。ファンタジーノベル大賞の中でもレベルの高い、素晴らしい作品の一つだった。読者を問わず、面白いのでオススメしたい。
今年に入ってから敬遠していたバラードを読んでいるのだが、『ヴァーミリオン・サンズ』『時間都市』そして本書『溺れた巨人』と読み進めたところ、バラードの作品が実に自分の好みであることを認識した。バラードのイメージは非常にヴィジュアルで映像化が容易だ。バラードの作品が人間のミクロコスモスをテーマに書いていることに起因するのだと思う。成長促進剤によって巨大化してまった鳥たちと人間の戦いを描く「あらしの鳥、あらしの夢」。そして腐敗して解体されていく漂着した巨人の死体の経過を描いた「溺れた巨人」。これらの作品には「死」に対するバラードの思いやイメージが込められており、さまざまな形で読者の心に訴えかけてくる。バラードの作品には「空間的な広がり」がある。この空間的な広がりに読者は魅力を感じていると思う。バラードの本は満月の夜に人里離れた場所で読みたい本である。山尾悠子さんの作品や天沢退二郎さんの作品を読み終わった感じがある。今後も注目して読んで行きたい作家だ。
日本経済新聞で連載していた「書林探訪」と月刊<ちくま>の「旧聞異聞」に連載していたエッセイを一冊にまとめた本。ヨコジュンさんのエッセイはヨコジュンさんの人柄がよく出ている点が好ましい。この本の中でヨコジュンさんは普通は知るはずもないもう一つの歴史を<雑本>と呼ばれる類の書物から掘り起こしている。価値のないと思われている雑本の山から知られざる歴史の1片を発見して喜んでいるヨコジュンさんの姿に共感しました。ヨコジュンさんの古書入手記も面白いし、見つけた本を調べて行くうち段々と話題が広がって行き、ますます古書探究にはまっていくところも読み応えがあり、ためになる。知られざる歴史の探求者としてのヨコジュンさんに今後も期待したい。(でもSF長編もぜひ書いて欲しいなぁ)。
解説は出久根達郎。ちくま文庫に収録されて入手しやすくなりました。ミステリでは有名な梶山季之さんの奇書。すごく面白いよ!というのも、本の表題どおり「せどり」の世界に魅入られ、財を成した男が古書にまつわる数奇な運命を主人公である作家に語る。彼の語る話は一度でも古書に魅入られた経験のある人ならば共感することだろう。この本で「せどり」という言葉の由来を知ることができた。「せどり」は決して誉められる行為ではない。せどりとは、新規開店の店に行って必要な古本だけを買う行為のことである。つまり安く買い叩いて高く売りつけるという裁定行為を指す。ジョン・ダニングの『幻の蔵書』(ハヤカワ文庫HM)はせどりの西洋版物語になっていて、西洋と東洋でのせどりの事情を比べるのは面白いと思う。
せどり男爵こと笠井氏の数奇な運命は6話で構成されている。各短編には麻雀の役がついており、麻雀の役の高さに比例して内容もより過激になっていく。和書から洋書まで、欲しい本をどんな手段を使っても入手しようとする人たちの姿はまさに冥府魔道。一番すごかったのはヤッス−ン夫人でしょう。訴訟を起こしてただで彼の本をせしめようとする行為ろが西洋人らしい。彼女の知恵に対抗して必死に策を練ったせどり男爵の闘いには手に汗を握る思いでした。装丁に心を奪われた男の話のような書痴の世界が存在すると思うと恐ろしい。本当に○皮の装丁は素晴らしいものなのだろうか。クトルー神話でもルルイエ異本が存在するからきっと保存には最適なのだろうと思った。一度セドリー・カクテルを飲むような血風を見つけて購入したいと思ったのだった。
すっかり翻訳されなくなった老大家のSF長編。一言でいえば「宇宙侵略」モノ。途中がすごくダルいので何度読むのをやめようかと思ったくらい単調なストーリー展開だった。しかしながらラストは1990年の作品ということを考慮すれば、ミステリになっていて面白い。凡作なのでまず絶対訳されないでしょう。「SEEKERと呼ばれる蜂形態の種族が地球を巣にすべく、地球を襲撃した。地球人はなんとか撃退に成功するが、地球は荒廃し、かつての繁栄は失われ、荒れ放題の状態になってしまう。そんな状態の中、人類はELDRENという宇宙人に庇護を求める。しかしELDRENは人類が彼らの一員としてふさわしいかどうかの見極めのため、援助を保留している状態だった。主人公ベンはSEEKERの撃退に成功した人類のリーダーを父に持ち、地球から離れて暮らしていた。彼はELDRENの若者が挑戦するゲームに成功することで、人類の価値を示そうとした。地球上では地球の採掘権を得ようとする宇宙人の陰謀によって地球在住の支配階級の少年と少女を引きつれて、ELDRENのゲームに参加させる。この二人は地球の支配権を得ようと、宇宙人と取引したのだ。」
さらにこのほかにベンの師で、ELDRENの構成種族のヒドラ宇宙人ギボンという人物が出てきます。彼の双子の兄(彼らは細胞分裂によって増殖する)がスターサーチという宇宙ステーションで殺されてしまうところがミステリ的でした。全体としてどうでもいい冗長な人間ドラマが展開されて、はっきりいっていらないんじゃないかと思った。さまざまな点で疑問が残ったのだが、ミステリSFとしては割と面白いと思う。でも「○は世界を救う」みたいなオチになっているのが陳腐すぎると思いました。
1980年代に大活躍した水見さんの単独長編。アイディア、内容、面白さ、どれをとっても申し分ない完成度。本の整理中に天野喜孝氏のイラストに惹かれて偶然手にとって読んだのだが、これが大当たり。
「時は20世紀、ガリレオ再審問題を取り扱ったローマ教皇ヨハネス二世はトルコ人のテロリストの凶弾によって重傷を負ってしまう。警察の調査の結果、再審問題を扱った教皇が事件に巻き込まれたり、急死することが多かったという。何とこのガリレオの再審問題がある一人の教皇−ウルバヌス八世−の存在にかかわっていたのだ!そして時はさかのぼり、悪疫の蔓延とルター派を中心とする新教徒との対立の真っ只中にある17世紀初頭のヨーロッパでは、天才といえる三人の天文学者が宇宙の真理を解き明かそうと宇宙の観測と計算、そして理論の検証に明け暮れていた。そんな天文学者の一人、主人公のヨハネス・ケプラーは不思議な力を持つ少女ウラニアに支えられ、コペルニクス宇宙を軸とした理論を打ち立てようと苦心していた。彼は同時代の天才、ティコ・ブラーエの助手としてデータを得ようとしたが、ブラーエの高慢な態度に腹を立てて決別してしまう。そしてケプラーの理論を賞賛していた同時代のもう一人の天才ガリレイのもとを訪ねる。しかしガリレオは手のひらを返したようにケプラーと敵対する。ティコ・ブラーエの亡き後、ブラーエの意志をついで天体観測を続けるケプラーのもとに悪意が襲いかかる……。」
こんな面白いSFが読めないなんて、本当に残念だと声高に叫びたい。ケプラーを主人公として宇宙に潜む真理が徐々に明かになっていく部分はまさにSFの醍醐味。同時進行で進む謎のコンピューターの正体。この正体が明かになったときは本当にびっくりした。この謎を知りたい人はぜひ本書を手にしてほしい。いろいろなSFのアイディアが詰まっていて、本当に面白い。意識とは何か?生命とは何か?時間とは何か?存在とは何か?をテーマに、こんなに縦横無尽なお話を豊かな想像力で描いた水見稜の才能に感嘆。未読の人はぜひ読んでみてほしい。特にディックが好きな人に強力にオススメする。
1970年初版という、ぼくが生まれる前に出版された本。カバーの状態はきれいなんですが、中のインクが薄れてしまってちょっと読みづらかった。あまり期待せずに読んだら、予想外の面白さ。今ならバイオホラーとして再刊すればそこそこの売上が期待できるのではないかと思う佳品。「南極基地への中継地点にある絶海の孤島に向けて飛び立った輸送機の中で怪事件が起こる。輸送機は胴体着陸に成功するが、その直後パイロットは謎の自殺を遂げる。さらに機内には他の搭乗員の姿も見当たらない。そして見本として積まれていたペンギンが一匹行方不明になり、自殺したパイロットの死体も消失してしまう。果たして機内で起こった事件とは?」というのがあらすじ。
難解の孤島で補給任務につく男女の極限状態の心理描写に満足しました。孤島という特殊な環境の中で過酷な任務につく男女の緊張感が事態が悪化するにつれて、だんだんと高まってくるところがいい。特にこの作品の読みどころは「敵」の正体。この敵の正体が当初わからない点が非常に怖い。敵の正体がわかった後もとんでもない展開が待ち構えていて、作品全体を通じてB級ホラーを見ているような気分。ちょっと設定を変えると「エ○○○ン2」のような話になってしまう。今読んでもあまり古びていない。逆にホラーがブームの今に再出版してみる価値がある話だと思う。ホラー、特にB級バイオホラー映画が好きな人は一読をオススメしたい。
「〜でし」語計画促進中らしい米田淳一さんの最新刊『リサイクルビン』は思いがけない展開の連続にびっくりさせられる。これはハードSFミステリだった!当初帯を見て、山田正紀さんの『SAKURA』(徳間ノベルズ)のような話と思っていたら、まったく違いました。
「警視庁捜査一課特殊犯捜査五係に配属された気鋭の女刑事大倉瑚珠は、意気揚揚と桜田門駅にある警視庁本庁庁舎へと入った。ところが、この五係にはオタクでさえない上司、鈴谷警部がいるのみで、別名「リサイクルビン」と揶揄される余所の課のフォロー専門の係であった。そんな課で瑚珠はせっせと事務処理をこなしていた。そんなある日、サラ金の無人契約機から女性が突然消え去るという事件が回ってくる。密室誘拐ともいえる状況に、検証は困難を極めたが、捜査線上にあるヤクザの名前が俎上に上がってくる。彼の名前は鷹巣、情報犯罪のプロであった。密室誘拐の件を含め、鷹巣について調べて行くうちに、さまざまな驚愕の事実が明らかになっていく……。」というのがあらすじ。
とにかく、「ギャフン!」SFの傑作だと思います。米田さんの人柄をご存知の方々はさらに楽しめることでしょう。謎の密室誘拐、謎の脱走劇、JRのダイヤ混乱事件などなどさまざまな事件が複雑に展開しますが、オチは賛否が分かれるところ。SF者のぼくは楽しめたので問題なし。面白いです。面白かったのは、ネタばれになる後半部。ポール・アンダースンの『時の歩廊』(ハヤカワ文庫SF)、A・E・ヴァン・ヴォクトの『宇宙製造者』(ハヤカワ文庫SF)的展開に驚愕。後半部の展開がSFなので、SF作品と認定したい。前半部も後半部との関係を考えると、純粋なミステリ小説とは言いがたいものはある。飛行機の時刻トリックにもちょっとびっくりしたのだが、後半の「実は俺は未来人で時間を好き放題できるだー」説明が出てきた段階で、ミステリではなくなる。時間管理のタイムパトロールを警察機構とする部分は面白い。
不満な点もいくつかある。未来人が強すぎな部分と途中から加わるカナコが不用ではないかということ。カナコのキャラクターが高田裕三の某漫画的なノリを思い出してしまって、感情移入できなかった点もマイナス。それと10章は(戦略的撤退……)。キャラクターが状況を説明するのは必要だと思うのだが、説明が長くなりすぎて物語の展開を殺してしまっている点も見うけられた。全体的に丁寧に書かれていて、世界に没入しやすいようになっている。今後の著者の作品に期待したい。
「東京近郊にある私立逝川高校。この高校で事件は起こった。12年前に一人の少年がピアノの前でインスピレーションを得て、「夏街道」と名づけられる曲を作曲したのだった。そして彼はイメージの中に現れた光景の道を<鏡>の中に見出した……。一枚の楽譜とひとつの伝説を残して、一人の少年が失踪した。そして事件から12年後、失踪した恋人の友樹を探しているという湘子は、不思議な能力を持つ同級生の季里に彼の行方を占ってもらう……。」というのがあらすじ。
一人の少年に起きた謎の失踪事件と、古来から不思議な力があるとされる「鏡の魔力」が紡ぎだす不思議な感覚に酔いしれた。主人公の湘子を手助けする魅力的な仲間たちの活躍ぶりは、高校生時代の自分を思い出して懐かしく気分になる。コンピュータに強い哲夫、リーダー肌の恭司、あねご肌の美砂、不思議な能力を持つ美少女季里、そして一途な思いを持ちつづける湘子、彼らの活躍はまるで<オレンジ党>の仲間たちのよう。鏡の悪魔と対決する季里、彼女を手助けする仲間たちの活躍に心踊った。ホラーではなくてむしろダークファンタジー的要素のある作品だと思う。また音楽が果たす役割が、とてもいい。音楽が力を持つというテーマで読者を魅了する話を久々に読みました。次の『水路の夢』(タイトルがすごく美しい!)を読むのが楽しみ。早く『世界線の上で一服』も買いたい。この作品に流れる「やさしさ」とラストに感激した1冊でした。