サンリオSF文庫のキキメの一冊で、あまり見かけない本。たまに古本屋で見かけても5000円・6000円が相場のようだ。値段が高いこともあって今まで買うのをためらっていたのだが、ネットの上のある古本屋さんで高めの新刊ハードカバー1冊分程度の値段で出ていたので購入した。角田純男氏のイラスト(猫女?)に惹かれて、読み始めてみたらこれが意外と面白い。実に奇想天外な設定のディストピアSFだった。
「友人と一緒に火星に向った主人公は事故に見舞われてしまう。主人公は生き延び、友人は死亡してしまう。そうこうしているうちに、猫の顔をした火星人に囚われてしまう。ところが彼らは主人公に危害を加えるわけでもなく、主人公の様子をうかがっているようであった。そして大蠍と呼ばれる有力者が主人公に貴重な国食を実らせる樹木「迷葉」を監視してほしいと依頼したのだ。彼らの生活を調査すべく、主人公はとりあえず大蠍の依頼を引きうけて、樹の監視人として働くことになる。そして猫人たちの奇妙な社会を調べようとする……」というのがあらすじ。
老舎はこの『猫城記』の連載を1932年に開始している。そのころ相次ぐ内乱で中国大陸は疲弊している状態であった。老舎は、架空世界を舞台としたSFで中国大陸の現状を批判しようとしたのだ。この小説が素晴らしいのは「ユートピアだと思っていた社会」の負の部分を徹底的に読者に提示し、「見てみぬふりをする猫人」「利己の利益しか考えない猫人」たちの築き上げた社会がいかに脆弱で腐りきっているかを強調した点にある。無気力さに支配された社会に対する老舎の怒りが文章からにじみ出ていて、非常に感じるところがあった。2000円くらいで古本屋にあったら即買いでしょう。それだけの支払いをする価値のある本だと思う。
『天の光はすべて星』は1997年から2001年までの間、ロケット打ち上げをめぐる人々の希望とと葛藤を描いたお話。書かれた年代こそは古びてはいるが、宇宙開発をめぐる政治的駆け引きの部分はいまでも十分通用する。この作品が読めないのは非常に残念だ。表紙イラストと内容が一致していないので、だまされたと思った人が多かったのかもしれない。
「主人公マックスは事故で片足を失った優秀なロケット乗り。宇宙開発に対する風当たりが強くなってきた中、マックスは宇宙開発に携わる日を夢見て、日々努力していた。そんなある日、木星探検計画を公約とした女性議員候補エレン・ギャラハーが登場した。宇宙開発を再び行うために、マックスは全能全知を注いで彼女の当選を助けたのだった。彼の努力によって、エレンは当選する。エレンとマックスは急速に仲良くなり、恋人関係になる。そして木星探査計画を実現するために奮闘するのだが……」というのがあらすじ。
面白かった。宇宙空間を夢見たマックスの努力が世界を変えることができたというところに感動した。すでに老年期にさしかかった一人の男性が、夢の実現に向けて奮闘する姿に強く共感した。しかしながらびっくり仰天の結末が訪れる。この結末は非常にギャフン!なものなのだが、このギャフンなオチがさらなる感動をもたらしている点は否定できない。この感動はまさにSFのセンスオブワンダー。そうでなければただの政治のかけ引きを描いたつまらないB級小説で終わっていたのではないかと思う。さらにこの物語を1953年に出版したブラウンのヴィジョンにびっくりした。入手困難なのが残念。ブラウンの違った一面を感じられた長編だった。
バカハードSF。非常に面白い短編集だった。実際ベイリーという作家についてぼく自身誤解していたように思う。何だか小難しいSFだなと思いこんで読むのを敬遠していた。今までベイリーの作品を読まなかった自分を呪った。
ベイリーという作家は日常の世界を普通の人とは違った視点から作品をつくることで、他の人たちの反応を見て楽しんでいるような節がある。彼の作品のツボにハマってしまい、ぼく自身びっくりした。チェスのナイトの姿で現れ出た宇宙人との交流を描いた「宇宙の探究」。この話はチェス盤世界の宇宙の姿と宇宙人の哲学観が面白い。「知識の蜜蜂」はブルース・スターリングの「巣」を彷彿させる話だが、こちらの結末の方がぼくには好みだった。SFとして虫の本性を描くことに成功している。「シティ5からの脱出」は設定の狂いっぷりにに脱力した。イアン・ワトスンの短編に近いテイストだった。「洞察鏡奇譚」はコペルニクス的転換の手本みたいな話だ。地底世界を宇宙と見たてるというネタはSFは宇宙空間だけではないことをぼくたちにうまく提示している。「過負荷」はサイバーパンクにつながるお話。経済システムというネタの調理に成功していると思った。「王様の家来がみんな寄っても」は、「考え方」と「物の見方」とをネタに、コンタクトにおける意思疎通をじっくり考えることができる逸品。個人的にかなりお気に入りの「ドミヌスの惑星」は遺伝子ネタが好きな人はぜひ一度手にとって読んでもらいたい。印象に残る話だった。「モーリーの放射の実験」はニコラ・テスラ?的なネタが科学理論でそれらしく書かれていて、楽しめました。最後の「オリヴァー・ネイラーの内世界」もまたサイバーパンクの先駆けのような話だった。ベイリー流に空間をうまくSFとして処理することに成功したように思える。
作品全体として非常にクオリティが高く、SFの「楽しさ」が見事に凝縮された素晴らしい短編集だった。入手困難なのが残念。奇想SFの書き手として今後の更なる活躍に注目したい。