池上永一の短編集。『レキオス』を読んで以来というもの、もっと沖縄の気分を味わいたいので手に取った。すごく面白かった!世界最強のオバァ小説集でしょう、これは。オバァたちが天真爛漫に物語中を闊歩するところが魅力的でした。(厳密には「宗教新聞」「前世迷宮」「木になる花」はオバァは登場しないのだが、他の短編に登場するオバァのパワーがずば抜けて目立つからだ。)池上永一のいい所が凝縮された素晴らしい短編集でした。
都市伝説と銘打たれたこの短編集には8つの短編が収録されている。どれもこれも甲乙つけがたく、印象に残るものばかり。好きな短編は「マブイの行方」「復活、へび女」「宗教新聞」。この3つの短編はほのかな恋の行方を脳天気に描いていて、気に入りました。特に「マブイの行方」はお馬鹿なので、そんな状況を想像しているだけで明るい気分になれました。主人公が散ってしまった自分の魂(分身)を求めて、あちらこちらに出向いてドタバタするところが素晴らしい。「復活、へび女」は最高!幼心を持ったへび女北里さんと主人公の生じたほのかな恋にホロリときました。「宗教新聞」はつ○だじ○う氏のネタそのまま(笑)。『レキオス』等で読んだ人ならわかると思うのだが、池上永一節が全開な短編。多少後味の悪さが残る「カジマイ」「前世迷宮」「失踪する夜」「サトウキビの森」も強く心の中に残る幻想小説として楽しめた。すごく完成度の高い短編集だと思う。夏も近づいたことだし、『風車祭』を早く読まないといけないなぁ。
山田正紀の魅力がふんだんに盛り込まれた冒険小説でした。物語のスピート感、構成は『火神を盗め』に近い。この物語の面白さはゲーム理論家同士の駆け引きでしょう。複雑に絡み合った事象が徐々に物語が進むにつれて明らかになるのが痛快。ゲーム理論家が冷静沈着なキャラクターで書かれているところが実際とかけ離れていて違和感を感じてしまった。それはともかくとして、小説の状況設定が面白い。
両親を間接的に殺したヤクザに対する復讐に失敗した少年とその恋人の逃避行と自衛隊の最新の対戦哨戒機の消失が最後にきちんと絡み合っていく。また熱い男同士の戦いが物語の中で盛り込まれているし、自衛隊の中での権力闘争が要所にしっかりと挿入されていて、楽しめる。冒険小説的要素が強い本書だが、誰にでも安心して薦められる1冊だと思う。山田正紀が冒険小説の優れた書き手であることを再認識しました。
吸血ヴィールスが蔓延した世界に一人生き残った人間の苦闘を描くSFでした。モダンホラーセレクションに収録された本で、ぼくの本は「モダンホラー」の赤文字が入っている。好調に売れているみたいで、現在でも書店で入手可能。嬉しい。書かれた時代は古いとはいえ、まったく古さを感じさせない面白さ。ラストは仕方がないとはいえ、ぞっとしました。中国に侵入した異民族が同化吸収される感覚。藤子不二雄Fさんの異色短編漫画集の「流血鬼」が似たような話なのだが、オチはこちらの方が後味が悪くなくてよかった。すでに小さいころにリメイク版は読んでいたわけで、情報をくださったU-kiさんに感謝。
夢をモチーフにした短編集。全体として憂いを含んでいて、非常によかった。UFOにさらわれた人間と知性をもったたぬき星人が生物研究所惑星で苦闘する「種の起源」と 機械人形たちと共に暮らした人間の子供が成長して作り出した世界のおぞましさを描く「人形都市」の2篇が素晴らしい。この2短編は絶対読むべし。「死は不死」(事故によって体を失った青年がサイボーグの体に改造されて生かされるお話。これもラストではっとします。)とか、「跳躍」も面白い。神林長平とは違った世界を提供してくれる夢の紡ぎ手としての川又千秋の復活を楽しみにしたい。
アニメ、カウボーイビバップ好きな人にお勧めの<パーミリオンの猫>シリーズ。シリーズを通じて、クールな主人公ネコと天才ハッカーノイズのコンビが、女性を洗脳して「人形」として利用する人形つかいのドゥーガーと戦うお話。ノイズのネコに対するジェラシーの部分がキーになっていて、それがちょっとした波紋になる。ラストのネコの台詞で、満足。やっぱりネコは(以下略)。
『崑崙遊撃隊』に次ぐ<魔境探検もの>。ロシアにあるとされる秘境とツングースでおこった謎の爆発を解明するために、一癖も二癖もある男たちが派遣されて謎を解くというお話。やっぱりスピーディなストーリー展開のうまさは光るものがある。『崑崙遊撃隊』と非常に似ているのだが、オチがSFである点で異なる。物語の完成度やアイディアの斬新さの点でも、『崑崙遊撃隊』の方が面白い。『ツングース特命隊』自体が二番煎じである印象はぬぐい切れなく、失敗作の部類に属しているように思う。『ツングース特命隊』の場合、プロットがそのまま使われている点がマイナス点に働いているように思えた。せっかくラスプーチンやグルチェフのような怪人物を出したのならば、もっと積極的に物語に関わらせるべきだったように思う。
スプラッターリベンジもの佳品。元一匹狼の殺し屋が自分の恋人を殺され、復讐を誓うという一行に要約される古典的な話(笑)。リベンジ物の面白さは主人公に感情して、敵が殺し、主人公を取り巻く謎を解明していくプロセスにあると思う。恋人を凌辱され、挙句の果てには殺されてしまった主人公は廃人状態まで陥る。「どん底」から這い上がって行く主人公の復活ぶりに、感情移入して楽しむことができることは必ず保証する。ノベルズという体裁もあって、ラストの復讐劇が削除されているのが残念なのだが、それが逆に読者の想像力を煽ってよい。
友成純一は文章がうまい。一度読み始めると止まらなくなる。文章のうまさに関しては天性だと思う。人間を肉の塊だという立場から徹底して執筆する友成純一は希有の才能の持ち主だと思う。今後もグロテスクホラーの第一人者として活躍してもらいたい。
天才作家トーマス・M・ディッシュの久々の長編ファンタジー。ダークファンタジーだった。願いに秘められた代償をテーマとしたファンタジーの中でも異色の設定の物語。u-kiさんが「タイトルを「M・S」に置換して、悪いバグのある製品を流布して自分のとこで有償で直す話」とおっしゃっていたのだが、そのまま(笑)。OSの現在を見とおしたとしか思えないくらいリアリティがあって、不気味でした。どう不気味なのかというと、当初は頭のいい子供の欲望やいたずらのための手段だった願いが下巻に成人していくにつれて、狂っていくところが嫌らしい。読み終えて思ったのだが『M・D』は電波系ホラーにも分類でき、牧野修さんが好きな人にはオススメできると思う。
中篇二篇を収録した冒険秘境もの。第1話めの「まぼろしの門」は『ツングース特命隊』『崑崙遊撃隊』『火神を盗め!』のエッセンスがふんだんに詰めこまれている。読んだ感じは横田順彌さんの<中村春吉もの>シリーズを彷彿させる。無骨で朴訥な猟師を主人公に、やくざ物、元芸者、仏教研究家がインドのヒマラヤ山脈へ向けて旅をするという話。全体として物語の導入部という感じで、彼らの冒険がどうなるかを最後まで書いて欲しかった。2話めの「アマゾンの怪物」は田中光二さんの冒険秘境もののような世界なので、冒険小説が好きな人にはいいかもしれません。こちらはキャラクターのパンチがあまりなくて、「魔境もの」と銘打たれていますが、いまいちの出来でした。山田正紀ファン以外は読まないでも特に支障はない中編集だと思う。
『DZ(ディーズィー)』は文章も読みやすく、さくさく読めた。横溝正史賞を受賞しただけあって、素晴らしい作品だった。ネタは進化人類もの。著者が医者ということもあって、医学用語や遺伝子関連の用語もきちんと説明されていて違和感無く読むことができた。登場人物が切り替わり、物語はかなり複雑に絡み合うのだが、きちんと最後に収束する。ミステリとしてのネタもぼくには面白かった。しかしながら残念な点もあった。せっかく美貌(ヒロインはなぜかいつも美貌なんだよなぁ。)の女医さんが女らしい芯の強いキャラクターとして登場しているのに、ラストのオチが心情的に納得がいかないものだった。どこが納得いかなかったかというと、心底惚れていた男を殺されて、いくら遺伝子レベルでの問題とはいえ、逆に恋人を虫けらのように殺した男を愛してしまうのはすごく納得できない気がする。というのは、涼子が彼のことをすごく愛している描写が物語中にあったからかもしれません。この点を除けば、陳腐になりそうなネタがうまく処理されていて一気に読ませる力量を持つ新人作家だったと思う。ところどころに組み込まれた小ネタ(兄妹、姉弟の双対性等)がさりげなく配置されていて、とても面白かった。でもちょっとクロロホルムで眠らせて、殺すネタが多すぎたんじゃないかと思ったのだが、読み終えた人はどう思ったのかな?是非感想を掲示板等でご意見を伺いたいところ。
『五つの標的』は再読でした。第三話の「四十キロの死線」を読んだ記憶があったのだ。収録されたそれぞれの短編は、ゲームの戦略・利得構造・プレイヤーを変えて5つのパターンで書かれている。たとえば第三話の「四十キロの死線」はチキンゲームそのものといえよう。先に車から飛び降りたほうが負けというシチュエーションを息子と父親の確執という状況に移し変えた短編だ。息子は車のスピードが40キロ以下になると爆発するという爆弾を仕掛ける。そのことを知らされた父親は息子とお互いの全知全能をかけてチキンゲームを行う。息子のはったりかもしれないという父親の不安な気持ちと、父親から一億円を奪い取れないという息子の焦りが交互に入り乱れる。この父と子のやりとりが非常に緊張感がある。果たして結末がどうなるか、それは本編を読んでみて読者が判断して欲しい。
他の短編のプレイヤーは「逃亡犯と刑事」「スパイとスパイ」「泥棒と絵の所有者」「会社の上層部といち会社員」であり、ゲームの利得構造は負ければ必ずどちらかが損をするという構造になっている。『五つの標的』は同じゲーム理論をネタに扱った『謀略のチェスゲーム』と比較すると非常に面白いと思う。『謀略のチェスゲーム』は「ゲーム理論家が行うゲーム」をテーマにした冒険小説であるのに対して、『五つの標的』では物語全体がゲーム的状況であるアクション小説であるといえる。『五つの標的』の魅力的なのは、各ゲームのプレイヤーと戦略、そしてそこから導かれる利得構造を換える事によって簡単にシチュエーションの異なるアクション小説にすることができるという点にある。出張で暇つぶしに読めるくらいさくさく読めるので、スピード感溢れる状態を楽しみたい人にオススメする。
『ブリーフ、シャツ、福神漬』は苦労して入手した割にはあまり面白いとは思えなかった。『山の上の交響楽』にあった中井紀夫らしい持ち味が収録された各短編に見受けられなかった。というのも、ぼく自身がひとり暮らしをしていないということもあって、各々の短編の世界になじめなかったのだろう。全体として失敗作という印象を受けた短編集だったが、何篇か面白かった短編も中にはあった。
全17篇中「とてもたくさんの数」「地図の地図」「コーヒーと散歩」の3篇だけが中井紀夫らしい短編だったと思う。「とてもたくさんの数」はラファティの「九百人のお祖母さん」的な雰囲気と抱擁されるという安心感が感じられて心地がよかった。「地図の地図」は偏執的な習慣性とゲーム的な魔力に引きこまれた男の姿をたわいもない地図探しに託した佳品。オチも循環性を感じさせてマル。「コーヒーと散歩」は中井紀夫さんらしさがよく出ていて、幻想的な話として読むことができます。近所を散歩していたときに新しい店を発見したときの喜びに溢れていて、ついついふらりと散歩に出たい気持ちになります。
全体として都市伝説や、日常から乖離してしまったときの恐怖をテーマとした短編集であり、『世にも奇妙な物語』の影響を受けているのではないかと思った。短編集全体としてお世辞にもあまりいい出来とは思えませんでした。
『ルームメイトノベル 佐藤由香の場合』はギャルゲーへの興味を無くしたぼくならば普段買わない本なのだが、作者が早見裕司さんということで購入した。読み終えて感じたことは、ノベライズとしてこの物語は十分成功していると思った。
東京から従姉の美人(お約束)の女子大生の由香が突然やってきて、主人公の家に二人きりで同居することに。そこに幼馴染の柊あやと悪友の達也が絡んできて、4人の恋をめぐる男女の思いが交錯するというお話。
まず「あやちゃんが可愛そう」と思った。というのは、主人公にほのかな想いを寄せていたあやちゃんが、東京から来た恋敵(佐藤由香)の出現をきっかけに、主人公を好きだという想いを強めて行く。そしてあやちゃんは思いきって主人公に告白をしてしまうのだが、由香の方を好きになってしまった主人公は思い悩みながらもあやちゃんを振ってしまう。あやちゃんに感情移入しているという作者の早見裕司さんの気持ちが文章にこもっていて、あやちゃんが主人公に振られるシーンでは悲しい気分になってしまう。
小説全体を通じて、人を好きになるということへの戸惑いとその喜びに溢れていると思った。このノベライズは佐藤由香の場合なので、あやちゃんの方はサブの扱いになっているのだが、読者の中にはあやちゃんと主人公が恋愛を成就するお話が読みたいと思った読者も少なくはないでしょう。現実世界の恋愛を考えると「そんな状況あるわけないだろう」というつっこみがありそうだが、恋愛シュミレーション系のゲームで遊んだことのない人たちでも「ルームメイトノベル」の世界を十分楽しめると思う。
ミステリのトリックに大ギャフン!……。すごいオチだったと思う。「物体光速移動装置を開発したデフォーはアメリカ・カナダ合衆国の地球外防衛庁の長官に任命され、その任に当たっていた。ある日、虫垂炎にかかったデフォーは緊急手術をするために名医の手術過程をプログラムしたコンピューターオペレーションシステムの病院に入院したのだが、失敗しないとされたこの機械が暴走を始め、デフォーは死んでしまう。この事件を重く見た大統領はコンピューター検察局の長官クレイダーに事件の依頼をするのだが……」というあらすじ。
以前おーかわさんと会ったときに「オチがすごいですよ、すごい!」といわれて気になっていました。読み終えておーかわさんのいったようにとんでもない事実に仰天してしまいました。狐につままれる感触というのはこういうことなのでしょうか?いくらなんでも物体光速移動装置がペテンだったなんで、そんな(驚)。どこかの番組でやっているような魔術トリックを読んでいるわけじゃないんだから!!ということで、久々にギャフン!の感覚を味わったバカミステリSFでした。特に探してまで読む必要はない本だとは思いますが、ギャフンマニアには強力にオススメな本でしょう。
パーミリオンのネコの3巻目。相変わらず文章の方も冴え、トリックもミステリ的ですごく面白い。ネコとノイズのコンビもますます息があってきた感じでした。どちらかというとミステリ的要素の方が強い感じでした。前回の『タンブーラの人形使い』に比べるとアクションシーンはやや落ちるものの、あっと驚く敵の正体にはこちらもびっくり。このシリーズは外れがないので是非読むことをオススメします。
『死亡した宇宙飛行士』は大傑作!っていうか、この短編集が入手困難なことを詫びろ!(By u-ki総統)って感じです。個人的には「最終都市」「低空飛行機」「死亡した宇宙飛行士」(SFMで柳下訳で読めます)「ウエーク島へ飛ぶわが夢」「通信衛星の天使たち」がツボにはまりました。「神の生と死」「浜辺の惨劇」「地上最大のTVショー」もよかったんですが、前に挙げた短編に比べるとネタがややありきたりではないかと思います。
解説によると『死亡した宇宙飛行士』が<テクノロジー三部作>(『ハイ−ライズ』『コンクリートの島』『クラッシュ』)から『夢幻会社』へと続く過渡期の作品らしい。この解説を読んで、『夢幻会社』を読みたい気持ちが高まった。『死亡した宇宙飛行士』に収録されている「最終都市」や「ウエーク島へ飛ぶわが夢」等の短編に出てくるイメージは読みかけの『夢幻会社』に出てくるイメージと重なる部分が多い。
バラードが構築した「最終都市」の世界はダリ的でシュールなもの。荒廃していた都市を復活させまた廃墟にした少年の夢、天才エンジニアで唖の黒人の青年が空を飛翔する夢、そして都市を花で覆おうとする少女の夢が交差し、見事に調和している。ぜひ映像化して「最終都市」の世界を堪能してみたい。この短編集を読み終えて強く感じたことは、「廃墟」の美が非常にモザイクのような儚い美しさにある。この本を読み終えてから以前トレヴィルから出ていた『廃墟大全』を取り出してバラードの「最終都市」の世界とを比較してしまった。ぜひバラードのほかの作品も読んでみたい。
ジャック・フィニイ『夜の冒険者たち』(ハヤカワ文庫HM)読了。普段ぼくたちが出会うことがないもう一つの世界−夜の世界−をこんなに楽しそうに描いたフィニイの脳天気さに乾杯したい。「有能な弁護士リュウはある晩寝付けずに、夜のサンフランシスコの街を散歩した。たまたまリュウは夜中と昼間の街が違っていることに気がついたのだ。それ以来すっかり夜の散歩が病みつきになってしまったリュウは、ある日友人ハリーの妻シャーリーとばったり出会う。彼女もまた眠れないときには夜に散歩をするという。二人は夜の高速道路で一緒に寝そべり、意気投合。そしてリュウは恋人ジョーを誘い、シャーリー夫妻と夜の冒険を一緒にするようになる。」というのがあらすじ。
最初は軽い散歩だった夜の冒険が、警察官をからかったり、夜の図書館に侵入したりなど、徐々に刺激を求めてエスカレートしていくところが面白かった。こんな夜の冒険は最後にゴールデンゲートブリッジに登って映写機のスクリーンをつるすというものになったときには流石にびっくりしました。フィニイ65歳の作品だそうです。歳をとってもフィニイは茶目っ気いっぱいな人だと思ったのでした。