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「最終都市」

2000年9月の読書感想文


牧野修『病の世紀』(徳間書店)

 電波系ホラーの名手牧野修のホラー長編。一気に読み終えた。地の文のテンポが小気味よく、実に素晴らしい。『MOUSE』でも定評のあった語り口のうまさは本作品でも遺憾なく発揮されている。しかしながらその反面、後半からラストにかけて実にあっさりとしすぎているのがもったいない。後半はなんというかディーン・クーンツ的な運び方で、これはこれでいいのかもしれないが、クライブ・パーカーばりの前半の濃密な描写が殺されてしまっているように思えて、もったいなく思った。あっと驚くネタだったので、もっとネチネチと嫌らしく(友成純一のように)やってほしかったものだ。

 各地で続発する猟奇的な殺人の裏には秘密があった。その秘密とはある事象によって引き起こされる恐るべき事実だったのだ。その事実を求めて刑事が、そして研究員が真実を求めて活躍するという感じのお話。

 痛々しい描写が本当に痛々しく、読んでいる間気分が悪くなってしまった。特に「歯」の話はむちゃくちゃ気持ち悪かった。あと電波系娘の書きこみは実際居そうな感じがしてぞっとした。生理的な嫌悪感を引き出すのには成功しているように思える。しかし主人公小淵沢がいい人すぎるので、多少インパクトに欠けた感がある。『リアルへブンへようこそ』よりは完成度が高いので、牧野修の長編ホラーをこれから読もうという人に薦めるのには最適。書誌情報はこちら


妹尾ゆふ子『竜の哭く谷』(白泉社花丸ノベルズ)

 妹尾ゆふ子氏の長編デビュー作。異世界ファンタジーの正統的な流れを汲み、「予言と滅びと伝承」を見事に融和させた作品だった。<魔法の庭>シリーズにも見られるのだが、妹尾ゆふ子氏の作品は<吟遊詩人>が果たす役割が大きい。よってこの物語は本来、口承によって伝えられるべき物語なのである。あえて吟遊詩人に語らせることで、物語の架空性と伝説性の両方を強めることに成功したのではないかと思った。妹尾ゆふ子氏は本作品を読んだ限り、ジェイン・ヨーレン的なファンタジーの書き手のように思えた。

 可憐な王女は滅びの予言を受けて生まれてきた。王の命により王女は塔に幽閉され、長い年月を過ごす。王は巨鳥を自由自在に操る王国の王に姫を差し出すことで、予言を回避しようとした。巨鳥の王は姫を慈しみ、滅びの運命を回避しようとする……、というあらすじ。

 予言を変えようと苦闘する各々のキャラクターたちの奮闘ぶりが泣かせます。『ゴーストドラム』を読んでいたせいか、インパクトが薄れてしまったのが残念だったのだが、物語全体を通じてヨーレン的な感じが非常によかった。ラストは読者の想像力の翼を羽ばたかせますし、色々な意味でデビュー作とは思えない完成度の高さにびっくりしました。多少キャラ萌えの要素が入っているんですが、花丸ノベルズという形態を考慮に入れれば仕方がないでしょう。現在古本屋でのみ入手可能なので、NAGA等で興味を持たれた方は探して読んでみるのもいいかもしれません。


K・W・ジーター『ダークシーカー』(ハヤカワ文庫SF)

 1970年代半ば、リーアム・ワイルと呼ばれるカリスマ教授の元に集う学生たちの集団は、狂信的な殺人事件を数多く残した。ワイルは終身刑、他のメンバーたちは<ホスト>というドラックの影響にあったとされ、保護観察処分となる。この忌まわしい事件から5年、メンバーの一人だった主人公タイラーは、精神科医による薬物治療により一応社会復帰できるまでに回復していた。実際の所彼は医師の処方した多量の薬物により<ホスト>の効果を押さえつけなればならないという状態にあった。そんなタイラーの元妻のリンダは、保釈中に身をくらまし、逃亡生活を送っていた。そのリンダのもとに、逃亡中のもとメンバーであるスライドから電話がかかってくる。彼は彼女の息子ブライアンを連れ去ったという。リンダはブライアンの消失を確認した直後、警察に捕らえられてしまう。そんな彼女は元夫タイラーにブライアンの救出を依頼するのだが……。

 チャールズ・マンソンのグループが実際起こした事件を下敷きにしたホラーテイストのドラックSFでした。かなり70年代テイスト入っています。主人公タイラーが<ホスト>の影響から抜け出せず、再び<ホスト>の支配する世界に戻って行く感覚は「悪のヒーロー」へとメタモルフォーゼする感覚があります。<ホスト>による精神共有のヴィジョンはまさに名作『ドクター・アダー』をものにしたジーター節。P・K・ディックの後継者と名指されるだけあって、<ドラック>による陶酔感やドラックでのトリップの恐怖をひしひしと感じるのは流石です。あと文章について感じたことがあります。ジーターはあえてスラングを多用することによって、物語にほどよい緊迫感を与えていると思います。他愛もないやりとりの中に潜む狂気などが、登場人物の台詞から感じ取れるのもグット。アイディアもなかなか卓越しているのですが、鋭い読者なればオチが途中でわかってしまうところはマイナスポイントでしょう。

 ただ売れなかったみたいで、現在新刊では入手困難。当初出たときはホラーSFだと思い敬遠していたのですが、偶然手にしたら面白く読めました。ディック等、ドラック系ダウナーSF小説が好きな読者にオススメできる本です。


リチャード・S・マッケンロー『ソーラー・フェニックス』(ハヤカワ文庫SF)

 トラウマ+ESP+宇宙船サジタリウス号の冒険+世界の危機というキーワードで語れてしまう軽めのスペースオペラ。本の分厚さもだいたい300ページ程度で、2時間程度もあれば読めてしまう。この本は「イラストつきの軽めのお話」に分類され、最近ではアスプリン等がこのカテゴリーで出されているはずである。

 惑星ハイブリージルの酒場で、船の保管料等で財政的にどん底に陥っていた宇宙貨物船船長モーリス・キャラハンは運送保管会社を営むジャクボウスキーと高額の報酬を引き換えに、ある積荷をアヴァロン星系に運送する契約を結んだ。積荷の内容を知らないキャラハンは元凄腕の兵士ハローハンを操縦士として雇い、積荷を積んで無事に出発する予定だった。ところがハローハンはその積荷があらゆる物質を恒星に変えてしまうという究極の武器<ベータ・トリガー>だったのだ。しかも出港前に、依頼人ジャクボウスキーは暗殺されてしまう。<ベータ・トリガー>を巡る陰謀が渦巻くなか、キャラハンたちは宇宙へと旅立つのだが……。

 これだけだと唯の陰謀系スペースオペラなんですが、さらにバックグラウンドに恐るべき戦いが繰り広げられていました。この戦いは色々な形で技巧を凝らしており、支配される側と支配する側、トラウマを与えられた側、与えた側での苦闘がフラッシュバックされ、読者の脳裏にボディブローのように効いてくる。それはハローハンの戦場での夢であり、ミツコの過去なのだ。物語の最後でこの二人のエピローグがうまく使われているのは見事。ラストは切なく悲しい。個人的にはこの3人のコンビで新しい話を書いてほしかった。スペースオペラの佳作。