『ロカノンの世界』


イラスト:萩尾望都

遥かなる大地へ……

あらすじ

 全世界連盟から派遣されたフォーマルハウト第二惑星調査隊は、隊長のロカノンを残して全滅してしまった。この惑星に潜む連盟への反逆者が調査隊を襲撃し、彼の調査隊のメンバーを皆殺しにしてしまったのだ。この事実を母星に知らせようとするロカノンであったが、通信装置を破壊されてしまっており、使用可能な装置は調査隊を全滅させた反逆者の手元にしかない。ロカノンは、この星の住人であるアンギャール族とフィーアという小人族の生き残りと共に、空を飛ぶ獰猛な風虎に乗って、反逆者を求めて未踏の大地へと飛び立っていくのだが……。


著者アーシュラ・K・ル・グイン(Ursula K. Le Guin)と
作品について

 1966年に出版された作品で、まずサンリオSF文庫で翻訳され、サンリオSF文庫が廃刊になったのをきっかけに、早川書房が版権を買い取り、1989年に再び早川SF文庫の1冊として販売されました。

 作者のアーシュラ・クローバー・ル・グィンは1929年、カルフォルニア州バークレーの生まれ。アメリカ・インディアンの研究で知られる著名な人類学者である父アルフレッド・L・クローバーと『イシ−北米最後の野生インディアン』の著者として知られる作家母シオドア・クローバーの娘として誕生。名門女子大学であるラドグリフ大学ではフランスを中心とした中世およびルネッサンス期文学を専攻し、コロンビア大学で修士号を所得して、1951年、フルブライト奨学生としてパリ留学の途上で知り合ったチャールズ・A・ル・グィンと結婚。

 彼女のプロ作家としてのキャリアは、すでに30年を越えているが、はじめて短編を書き上げたのは9歳の時で、妖精の登場する話であったらしい。SF界へのデビューは<ファンタスティック>誌に1962年9月号に載った「4月は巴里」だそうです。1966年から67年にかけて、エース・ブックスから『ロカノンの世界』『辺境の惑星』『幻影の都市』を刊行した。そして後にヒューゴー・ネビュラ賞の両方を受賞した『闇の左手』を刊行した。彼女は「SF界の女王」と呼ばれるが、ル・グィンの作品は各方面から高い評判を受け、ローカス賞、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、世界幻想文学大賞などなどSF、FT界では最も栄誉ある賞とされる賞を何回も受けている。特に最近では、作家村上春樹の訳で『空飛び猫』シリーズの4作目が最近刊行され、ますます彼女の人気は高まっていると推測されます。

 この『ロカノンの世界』の元となる作品は、1964年<アメージング>誌に掲載された「アンギャールの宝物」です。この作品は2年の歳月を経て、『ロカノンの世界』のプロローグ「セムリの首飾り」として今、我々は読むことができます。

 ちなみにイラストは著名な少女漫画家の萩尾望都さんで、その美しいカバーイラストはロカノンの世界を想像しながら読むのに一役買ってくれるでしょう。

 私が彼女の作品に出会ったのは岩波書店から発売されている『ゲド戦記』でした。その不思議な設定と、名前の意味、闇と光の闘いという設定に惚れ込んで、幼心と好奇心を刺激しました。この『ゲド戦記』は『ナルニア国物語』と共に、自分がSF・FT者になるきっかけを与えてくれた作品です。それゆえに、彼女の作品もできる限り、入手困難なものも含めて探して、読んでいこうと思っています。

 彼女の作品リストはこちらを参照してください。

なお、この解説は早川SF文庫の『闇の左手』の山岸真氏の解説に準拠しています。


感想

 ル・グィンの処女長編第一作である本作品は特にプロローグの「セムリの首飾り」が印象的です。本編ももちろん心弾み、そして悲痛な冒険の物語になっているのですが、最初のプロローグの「セムリの首飾り」は絶品です。まず、このプロローグ自身が「作品について」で記したように、北欧神話がベースになっているという点です。少々違うのは、主人公セムリが<海の眼>と呼ばれる先祖代々から伝わってきた首飾りを求めて、「星の君」と呼ばれるロカノンたちの調査隊の元へと赴いて、首飾りを返還してもらうという話なのですが、ロカノンたちの元に行くために、あることをしてしまったために、悲劇が起こるのです。この部分がやはり絶品で、首飾りを返してもらった彼女は、故郷に戻るのですが、故郷に帰った彼女が見たのは……というちょっと悲しい話です。このプロローグから始まり、本編はもっとすごいことになっています。

 ロカノン率いる調査隊が反逆者によってロカノンを除いて、全滅させられた後、ロカノンはそのセムリの国であったハランの君に協力を求めて、風に優雅に舞う虎−−風虎に乗って、ロカノンですら知らない未踏の大地へと反逆者たちを探しに旅立ちます。この冒険の過程が何となく、今は亡き手塚治虫先生の「ジャングル大帝レオ」の最後のシーンで、雪山の驚異に負けて探検隊が全滅していくシーンがありますが、実にそのイメージに近いものがあります。ロカノンはほとんど丸裸な状態で、現地人と同じような装備ですし、戦争あり、囚われて処刑されかけるし、未知の種族に食べられそうになるし、反乱軍には殺されかけるし、と僅差で冒険を行っているという感じです。そんな危うい感じでロカノンはある場所である出来事に遭遇し、それによってあることが可能となるのですが、そのあることが起こるシーンはもう一つの山場かな?と思っています。

 最初の処女長編とはいえ、実に盛りだくさんで、お勧めの一品です。詳細が知りたい方は読んでみてください。個人的にはロカノンの立場になって読むと、感情移入ができていいかと思います。


本について