『影よ、影よ、影の国』感想めも |
シオドア・スタージョン『影よ、影よ、影の国』(朝日ソノラマ文庫)を読み終えた。倉坂鬼一郎氏の本にも「マニア向けで今買うとものすごい値段がする」と言われている朝日ソノラマの海外シリーズの一冊だ。つい最近までは入手する気はなかったのだが、先日『一角獣・多角獣』を読み終えてから、スタージョンという作家の短篇がもっと読みたくなってしまい、ハードカヴァーの高い本くらいの値段を支払って入手した。読み終えて思ったことは、入手した値段くらいの価値はある短編集だったということだ。
何とも言えない味わいのある短編集だ。短篇は合計して7つ収録されており、まさに「静かに発狂してから読むべし」というテイストであった。しかしながら『一角獣・多角獣』よりかは、毒が薄れているように思えた。短篇のアイディアは我々がいつもは当たり前だと思っていること、すなわち潜在意識下の出来事が表面化したら恐ろしいということを今さらながら思い知ったし、さらに人間のエゴイズムを鋭くそして皮肉を交えて描くスタージョンの怖さを改めて痛感した次第だ。スタージョンは正常ではないもの、すなわち欠けた者を書かせたら天才的といっていいほど凄い短篇や作品を書く人だと痛感した。まだ彼の代表作である『人間以上』を読んでいないが、やはり異能人たちを描いた長篇だということはしっているので早く読んでみたい。
表題作の「影よ、影よ、影の国」は心温まるファンタジーというよりも、子供の気まぐれや残酷さを見事に描いていると思う。その意味では『一角獣・多角獣』の「熊人形」に通じる部分が多々あると思う。継母に折檻された主人公のボビーは影と遊ぶことをしっている少年。彼は継母に父親がいない間に自分の玩具を取り上げられて、反省のため部屋に閉じ込められてしまう。彼はランプのシェードや自分の手を使って、いろいろな影の動物をつくるのだが……。この短篇はボビーの気持ちになって読むと、ほろりとします。ぼくには彼らがいるんだ。彼らはぼくを助けてくれるんだ、という気持ちになれます。あっけに取られたのは「秘密嫌いの霊体」。この短篇を読み終えた後、「そ、そういう話はは、反則だぜ……。」とか思ってしまいました。自分の心の中に芽生えている悪意やうっ積している「感情」を秘密にしている限り、彼らは現れ、彼女に憑依する。彼女は彼らをディスペルするために、秘密を暴露してしまうという筋の短篇。この話は個人的になかなかお気に入り。
人間とは異なる者とのコンタクトを描いた「金星の水晶」。ファーストコンタクトの時に我々が考えている相手方の反応をスタージョンは逆転させて描いている。たいてい我々人間は万能であり、相手はおびえて恐れているという反応をとると思っているふしがあるのではないだろうか。もしかすると人間は嘲笑の対象ではないかということをスタージョンは気づかせてくれる。さらに同様のテーマともいってもいい「地球を継ぐもの」は人類が優秀なんだということは一度考え直さなければならないということを示唆している。考え方の転換というか、ここまでやられると見事しかいいようがないと思う。
あとの短篇で印象に残ったのは「嫉妬深い幽霊」。この話は笑ってしまった。幽霊のような容姿をした女性に取りついた嫉妬深い幽霊が起こした嫉妬とは?という話。最後の解決策は「おお、そういう手か。」と妙にオチに感心してしまうこと請け合いです。そして心温まるテーマである「超能力の血」。女性の人(特に既婚の方)ならうん、うんとうなずきながら共感して読めるのではないかと思う。こういう能力があればパパになる男性方も協力できるし。そしてマッドな発明品物と一言で言ってしまえばわかってしまう「死を語る骨」。この短篇もオチが見事しかいいようがない。先日読んだ高橋克彦の「万華鏡」のオチに似ているかもしれないが。まあ、読んでみればわかるのだが、ぼくも彼の姿はみたくないなぁということでしょうか。
『一角獣・多角獣』よりインパクトが弱いかもしれないですが、完成度は実に高いです。機会があれば是非読んでみてください。