『大いなる天上の河』


カバー:加藤直之

機械生命の侵攻!

あらすじ

 広大な宇宙に向かって人類はようやく進出しはじめていた。舞台は銀河中心にあるデニックスとよばれる年老いた恒星スノーグレイド。この時代、有機生命を敵視する機械文明との遭遇が、人類の運命を大きく変えてしまったのだった。有機生命の抹殺、皆殺しをもくろんだ機械文明により、人類は徐々に破滅への道へと追いやられていた。すでに人類は機械生命のおこぼれにあずかりながら、雑草のように生きていたのだった。そんなスノーグレイドにも容赦なく機械生命の魔の手が襲いかかり、人類の文明の拠点であった<城塞>は破壊され、ちりぢりになって逃げ出すことになったのだ。それから6年、機械生命によるテラフォーミング(寒冷化&砂漠化)が進行したスノーグレイドの中にたくましくも人類の生き残りは、ビショップ族、ルーク族、キング族、クィーン族などのいくつかの部族に別れてさまよっていたのだ。主人公のキリーンもビショップ族に属するそんな人類の一人であった。

 この時代なんと、人類は生身の身体を捨て、機械に対抗するために自らを機械化していたのだ。あらゆるデータを電磁的に処理する知覚システム、脊椎上部に設けられたスリット。ここに死亡直後の脳髄から情報を抽出して、チップ化したアスペクトとよばれる死者の人格の手助けにより、何とか生き延びてきたのである。そんな中族長のファニーを新手の機械生命に殺されてしまったビショップ族は、反撃もできずにルーク族に合流する。そして放浪の末、定住生活をはじめていたキング族に遭遇した。彼らは逃亡メカの保護の下、再び<城塞>を築き上げようとしていたのだが……。


著者グレゴリイ・ベンフォード(Gregory Benford)と
作品について

 1987年に書かれた作品で、1989年にハヤカワSF文庫の一冊として日本語に翻訳された。イラストは加藤直之さん。ハードSFにはかかせないイマジネーションあふれるイラストが見事。本作品もまた氏の上下にまたがった濃厚なイラストに魅せられることだろう。逃亡機械生命体マローダーにまたがって協力するサーボ化された人間たちが精緻なタッチで描かれており、想像力の手助けになるでしょう。

 著者グレゴリイ・ベンフォードは1941年アラバマ州生まれ。SFを読むと同時に科学に興味を持ち始め、物理学を専攻。オクラホマ大学からカルフォルニア大学へ進学し、理論物理学のPh.Dを所得している。現在カルフォルニア大学アーヴィン校の教授で、プラズマ物理学などの研究に従事している。(ちなみにホームページはこちら。本人の写真がある。)SFファン歴は14歳からで、テリイ・カー&テッド・ホワイトらも参加していた<ヴォイド>を21歳まで出し続ける。現在まで日本で翻訳されている作品は以下の通り。『アレフの彼方』(ハヤカワ文庫SF591:山高昭訳)、『タイムスケープ』(ハヤカワ文庫SF773・774:山高昭訳)、『木星プロジェクト』(ハヤカワ文庫SF783:山高昭訳)、『彗星の核へ』(ハヤカワ文庫SF754・755:ディヴィッド・ブリンと共著:山高昭訳)、『もし星が神ならば』(ハヤカワ文庫SF802:ゴードン・エクランドと共著:宮脇孝雄訳)、『時空と大河のほとり』(ハヤカワ文庫SF853:山高昭他訳)、『シヴァ神降臨』(ハヤカワ文庫SF870・871:ウィリアム・ロツラーと共著:山高昭訳)、『時の迷宮』(ハヤカワ文庫SF901・902:山高昭訳)、『夜の大海の中で』(ハヤカワ文庫SF658:山高昭訳)、『星々の海をこえて』(ハヤカワ文庫SF662:山高昭訳)、『大いなる天上の河』(ハヤカワ文庫SF805・806:山高昭訳)、『光の潮流』(ハヤカワ文庫SF879・880:山高昭訳)、『荒れ狂う深淵』(ハヤカワ文庫SF1121:冬川亘訳)、『輝く永遠への航海』(ハヤカワ文庫SF1194・1195:冬川亘訳)、『悠久の銀河帝国』(早川書房:アーサー・C・クラークと共著:山高昭訳)である。数年前までは彼の作品はほとんど入手できたが、現在入手可能なのは1000番台の二冊とクラークとのジョイントくらいだ。


感想

 ずいぶん前に読んだ本で、とにかく面白くて一気に読んでしまったことを思い出したのだった。久々に再読したのだが、思わず夢中になってしまった。たぶんこの面白さはやっぱり「人間が一方的に虫けらのように扱われる」という視点の切り替えにあるのではないかと思った。数少ない読んできたSFの中でも一方的に機械生命が人間をまるで家畜のように狩るというものは少なく、「いかに機械生命からの目を盗み、生き延びていくのか?」という部分がとてもシビアに描かれていて、サバイバル小説を読んでいる気分になった。もちろんハードSFの旗手であるベンフォードならではのアイディアも満載で、これはもうメカが好きな人は読まなければだめでしょう。サーボ機能によって改造化された機械ボディを持つマシン人間。死者の記憶をスプールして知恵として呼び出す機能を持つ個人の記憶のメモリーソフトであるアスペクトとか、それだけでもかなりにやりとすることでしょう。とにかくマンティス(機械生命)が襲いかかってくるシーンは本当に怖いですよ!

 この本は一応新たなシリーズの始まりになっていて、主人公キリーンと続編以降から重要なキャラクターになるその息子トビーとの愛情あふれる家族的やりとり、そして人類がいかに生き延びるかを模索する機械化した身体を持つ人々が逃げようとする姿はいじらしい。そして「機械生命」という本質的に人間とは異なる生命形態に対する恐怖・憎悪の気持ちが増幅すること請け合い。特に機械生命が自分たちの生存のために、人間の身体をクローニングして工場の中でつくっているシーンはキリーンでなくてもぞっとするでしょう。機械が有機生命を喰らう、という部分にもぞっとする人は多いはず。この本は続編『光の潮流』に進むわけですが、うまくスノーグレイドからアルゴとよばれる宇宙船によってエクゾーダスしたキリーンの運命はいかに!ということで、続編を早速読んだのですが……。(これがまた意外や意外な話になっていて、絶対読むことを薦める。キリーンからトビーへと物語は受け継がれていくことがわかるでしょう。『大いなる天上の河』は本当に長いクロニクルの序章にすぎない。機械生命の正体が知りたい人は続きを読み進めることをお薦めしますが。)

 現在この本は品切れ中。おととしぐらいまでは割ところがっていた本なんですけどねー。まあ、『大いなる深淵』とか読んで、キリーンのプロローグを知りたい人は読むことをお薦めします。


本について