『スラッグス』


イラスト:野原幸夫

やつらはそこから現れる……

あらすじ

 ナメクジはゆっくりと眼柄を動かし、すでに数匹の仲間が喰らいついている深紅の肉の塊にはい上がり、長い中央歯をそこに埋め込むと、覚えたての血の味を味わいながら、鋭い歯舌をおろしがねのように前後に動かして肉を齧り取った。その家の地下室には黒くぶよぶよと太った彼らによってすっかり支配されていた。臭気の漂う地下室の中で彼らは血と肉を渇望していたのだ……。この家のあるじロン・ベルは若い娘との情事がばれ、妻に離婚され、果てには仕事に失敗して解雇され、失意のどん底にいた。地方税は未払い、請求書は山のように積み上げられ、24時間以内の立ち退きを要求されていた。泥酔していた彼はコーヒー・テーブルにぶつかり、頭をいささか打ち付け、負傷して気絶した……。顎につめたいものを感じて彼が目を覚ましたとき、ぬるついた物体が唇にはい上がり、唇に滑り込んでくる。頭の傷に手をやると、何かが傷口にしがみついていた。粘液にくるまれたそいつが、彼の肉体を貪ぼっていたのだ。悲鳴を上げ、そいつを引きはがし、必死で逃げようとしても無駄だったのだ……。部屋はすでにやつらによって占拠されていたのだった……。彼の足にしがみつき、彼の足を喰らい、耳から侵入して彼の灰色の脳髄を喰らいつくそうとするやつ、そんなやつらにとりつかれなんだかんだしているうちに彼の肉体はみるみるうちに喰いつくされたのだった。残ったのは一部始終を見ていた眼窩の中の眼球だけだったのだ。そうしてやつらはさらなる食料をもとめて動き始めたのだった……。


著者ショーン・ハトスン(Shaun Hutson)と
作品について

 1982年に書かれた作品で、1987年に日本語に翻訳されています。早川書房のモダンホラーセレクションの一冊として販売されています。カバーデザインはモダンホラーセレクションの大半をデザインされた辰巳四郎氏です。イラストレーションは野原幸夫氏で、どす黒く変異したリアリティあふれるナメクジが、赤(たぶん肉塊をイメージ)を背景にぬめくりながら進んでいるという感じのイラストレーションです。

 著者ショーン・ハトスンは1958年、イングランド南東部のハートフォードシェア州の生まれ。著者自身によれば、18歳で放校されてから、様々な職を転職し、20歳でようやく作家デビュー。その後1983年に"SPAWN"が出版されたのを機に専業作家に転身した。28歳のときにはすでに30点を越える小説が出版されており(『ターミネーター』のノヴェライゼーションを含む)、ペンネームでの作品も多い。『闇の祭壇』の解説によれば、フランク・タイラー、ニック・ブレイク、ウルフ・クルーガー、サミュエル・P・ビショップ、ロバート・ネヴィル、ステファン・ロストフの6つのペンネームがあるそうだ。ホラーの最新作は1998年に発表されたロンドンを舞台にした殺人鬼ものPurityである。日本で読める彼のホラー作品はすべてハヤカワのモダンホラーセレクションに収録されている。本書、ケルト神の覚醒を描いた『闇の祭壇』(茅律子訳、ハヤカワ文庫NV)、人間の心の奥底にある邪悪な領域シャドウズについて描いた『シャドウズ』(船木裕訳、ハヤカワ文庫NV)がある。残念なことにモダンホラーセレクション自体が商業的に失敗したこともあり、彼の作品はすべて絶版になっている。今後扶桑社ミステリー他から翻訳されることを願ってやまない。


感想

 い、嫌すぎる……。ていうか、これほど生理的嫌悪感を感じさせるホラーも久々でした。なんというか、イギリス人だからこそ、こういう発想ができるのかなぁと思った。イギリス人にしては珍しくスプラッタ系入っていますけど。今復刊したら充分売れる作品じゃないかなとは思うのだが、モダンホラーセレクション以降翻訳が出ないところを見るとあまり日本では人気がでなかったのかな?まあ、パニック&突然変異ものの中でも顕色なく、ツボを押さえていてとても面白い。

 簡単にいうと、スラッグスなんです。(何が?)なめくじが大量発生して、そのナメクジというのがとんでもない代物だったというのがお約束なわけでして。ナメクジマニア(笑)という人はいないかと思うのですが、あのぬめぬめぷよぷよじゅくじゅく感(書いていて気持ち悪い)がいいという奇異な人は除いて、あの外見は生理的嫌悪感を催さずにはおれません。まさに、本書はその生理的嫌悪感を引き起こすという素晴らしいホラー。やつらがある日突然変異をし、地下室を住処にどんどん増殖・巨大化し、下水道に広まり、人間や動物に襲いかかるというとんでもない話でした。ぎゃーーーやめてくれーというのが読み終えた後の正直な感想。どす黒く巨大化したやつはまるでヒルのよう。すげー恐いっす。いったん噛まれたらもう最後、その傷口からその巨大なナメクジが侵入し、体を食い漁ります(その姿はまるでピラニアのよう)。こいつらはとんでもなく、内部に入れる部分(自主規制)とかからも容赦なく侵入して、ありとあらゆる肉を食い漁り、残るは白骨血まみれという……。東では庭を徘徊し、手袋の中に入り込み、人の手を食べ尽くし、西では蛇口から這い出て、人間に襲い掛かるというとんでもない代物。さらに、このナメクジを間違えて食べてしまった日にはとんでもないことに。このナメクジには寄生虫がおり、その寄生虫によって人間は殺されてしまうという恐ろしい結末が控えているという。何だか駄目押しに駄目押しを加えて、凄いダメージを与えるという感じでした。途中、間違えて食してしまった人の話があるのだが、この人眼球をやぶられて、眼窩から白い寄生虫がはいでてくるシーンは、気持ち悪すぎ。一般市民が知らぬ間に犠牲者になっていくシーンで、日常性をうまく強調して、「黒く巨大化した肉食ナメクジ」のイメージを強調することに成功しているのは、まるで映画のカットバックを見ているような感じで、感動もの。主人公の衛生監査官がナメクジに対処して、いかに撲滅したかよりも一般市民が知らぬ間になぶられて殺される点に注目すべきホラーかも。読後はちょっと後味悪いけど、それを除いても十分堪能できるホラーでした。お薦め。(でも、本を読んでしばらくレタスを食べたくなくなってしまうでしょうけど。)残念ながら本書『スラッグス』は絶版なので、古本屋をまめに探してみてください。割と均一棚にあるかもしれません。


本について