『復讐の序章』


イラスト:萩尾望都

華麗なる復讐劇の開幕!

あらすじ

 この宇宙にあまねく名を知られた5人の大犯罪者がいた。災厄のアトル・マラゲート、殺戮機械ココル・ヘックス、ヴィオーレ・ファルーシ、レンズ・ラルク、ハワード・アラン・トリーソング。人々は彼らの行い、その性格から、<魔王子>と彼らを呼び、彼らを恐れていた。ある日、魔王子たちの要求を拒んだ人口5千人の小さな町、マウント・プレザントは見せしめのため、虐殺され、生き残った人々は奴隷にされた。そんな中、祖父と共にこの虐殺を生き延びた少年がいた。この少年こそが、主人公のカース・ガーセン。祖父から様々な暗殺技能を仕込まれ、彼らへの復讐を胸にここまで生き延びてきた。

 そんなある日。スメードの星と呼ばれる星で探星師のふりをして、宿泊していたガーセンは、不安そうだが知的な雰囲気で、何か謎を持った男と出会い、彼の冒険話を聞くことになった。彼の名前はルーゴ・ティハールト。彼はある惑星を見つけたのだが、スポンサーがなんと彼の復讐相手である魔王子アトル・マラゲートで、彼はその惑星については彼に教えたくなく、逃亡を試みたが、魔王子が放った刺客によって彼は捕らえ、殺されてしまう。しかし、彼らは回収すべき宇宙船をガーセンの宇宙船と間違え、それを回収していってしまった。そのため、ガーセンはティハールトが発見したと言われる惑星について詳細な情報を手にいれるべく、製造元のプレートからある惑星へと向かうのであるが……。


著者ジャック・ヴァンス(Jack Vance)と
作品について

 1964年に書かれた作品で、1985年に早川SF文庫の一冊として日本語に翻訳されています。イラストは少女漫画家の萩尾望都さんで、彼女の美しいイラストとともに堪能されることを望みます。

 著者ジャック・ヴァンスといえば、この<魔王子シリーズ>の他にも、早川SF文庫からは、ヒューゴー賞を受賞した『竜を駆る種族』と、『大いなる惑星』の2冊があり、他にも創元推理文庫SFから発売されている、<冒険の惑星シリーズ>が有名である。しかし現在彼の本は品切れもしくは絶版になっていて、最近SFを読み始めた人たちにとっては「ああ、『SFハンドブック』に書いてある人ね。」程度の認識しかないのではないかと思う。特に本作品は実にシリーズものの中でも屈指の出来で、徐々でも構わないので復刊が望まれる一冊であります。(割に『大いなる惑星』は古本屋にあることが多いかもしれません。結構見かけた記憶があります。でも去年の話なので無くなっているかもしれませんが。)

 ジャック・ヴァンスは1916年、サンフランシスコ生まれ。カルフォルニア大学で鉱山学、そして物理学、最後にジャーナリズムを専攻した。しかしながら、卒業後は学歴を生かした職業には進まず、様々な職業を遍歴しながら小説を書き始めた。彼はミステリー、サスペンス小説を含めて50冊以上の著書があり、ヒューゴー賞、ネビュラ賞の他に、ミステリーのMWA賞も受賞しているという作家である。彼は特に「異質な文化を色彩豊かに書くことができる希有の才能」と評価されており、日本ではその翻訳も多いのであるが、実に悲しいことに品切れ、もしくは絶版状態になっており、その復刊が待ち望まれる。なお<魔王子シリーズ>は、実になんと完成までに17年!もかかったシリーズであり、幸いなことに日本では原著が終わってから翻訳したので9か月で全5冊を読むことができるということで、日本の読者は17年間も待たないで読むことができたのは幸運だったでしょう。


感想

 古本屋でたまたま見かけて購入できた作品の一つです。ばらばらでは見かけてはいたのですが、セットで販売するというのは珍しいので思わず結構な値段がしていましたが購入しました。<魔王子シリーズ>の開幕の書で、謎のベールにつつまれた青年ガーセンが、復讐のために彼らを追い求めるという話で、最初の1巻目は災厄のマラゲートで、ひょんとしたきっかけで主人公が手がかりを見つけて、マラゲートを追いつめていくさまは圧巻です。殺し屋との対決シーン、ラブロマンスのシーン、人々とのやりとりのシーン、どれもスピーディで、軽快なテンポで「ガーセンのスペースオペラ」としても十分楽しめる作品です。まず章はじめに挿入されているヴァンスの設定であるこの世界からの雑誌の引用やインタビューの転載によってこのガーセンと<魔王子>が活躍している世界がどのような形になっているのか、イマジネーションの助けになるのではないかと思います。それから主人公ガーセンが非常にシニカルで、現実主義者であるということ。これは映画で言うと『ウォーター・ワールド』のケビン・コスナーや『ブレードランナー』のデッカートみたいな性格をしていて、あくまでも自分の目的をやり遂げようとする、物語の一人としての性格を徹底的に追及されて書かれているような感じをうけます。

 あと、<魔王子シリーズ>とされていることを考えれば、ガーセンの立場ではなく”魔王子たち”の立場からこの物語を読んでいくとまた面白いと思います。読んでいくとわかるのですが、魔王子も感情的には激しいとかちょっとばかり問題はあるにせよ、感情を持った人間ということがわかるでしょう。むしろ、魔王子たちがなぜガーセンに殺されなければならないのか?を異なる立場で読み進めるのも面白いかもしれません。これはおすすめの作品ですが、かなり入手困難ですし、探索には注意ください。最後に、この巻のトリックは驚きました。意外な人物がマラゲートだったので。個人的にはエピソード的に書かれたダースとランポルトの関係が……。人間恐ろしいと思いました。


本について