『不思議の国トリプレット』 |
イラスト:米田仁士惑星トリプレットではその名前が示すように、3つの並行世界が接している。一つ目は<二十世界>に属するスレッシュオールド。その辺境に、第二の世界、シャムシールにつながるトンネルがある。シャムシールはトロールとよばれる宮崎駿画伯のアニメ『天空の城ラピュタ』ででてくるラムダのようなロボットがおり、それを利用して地方領主が社会を支配する、伝説の中世風の世界であるが、そこではテクノロジーが異常に発達している世界である。さらにこの世界からまた別のトンネルをくぐると、第三の世界、カリックスがあり、ここでは完全なる魔法の世界で、呪文を使って精霊を呼び出して、様々な仕事を命じている。<二十世界>を統治する星間政府は管理局を設立し、トリプレットへの無断立入を禁止していた。
しかしここに本編の主人公である惑星オータリスの超わがままで自己中心的(と書くと救いようなないが)な女子大生ダナエが大学の研究調査のために、トリプレットの社会学的調査を選ぶことになる。ダナエがなぜこんな最悪な性格になってしまったのかというと、ダナエの父親は宇宙的な大富豪で、これが親馬鹿の典型であり、彼女のすることをすべて裏でかなえてしまう。子供扱いされることに彼女は腹を立てて、アドバイスに従わず、自分流でピンチを切り抜けようとしてはまってしまうというという悪循環におちってしまう。よって彼女は自立するチャンスとしてトリプレットを訪れるわけだが、当然彼女一人でこの3つの世界を旅することができないために、副主人公である経験豊富な案内人ラヴァジンという男性がでてくる。
彼は、ダナエによって招かれたトラブルを処理しながらも(愚痴がむちゃくちゃ笑えますが)、ピンチになれば必ずなんとかするというかっこいいおっちゃんである。という感じで3つの世界を旅するうちにある事実がわかってくる。それは本書の秘密になってしまうので、詳しいことをかきませんが、精霊による人間への陰謀をダナエが発見し、下巻で登場するダナエのボディーガードであるハートを加えた3人で、この宇宙規模の陰謀を阻止するという話です。前半部分でも相当おもしろいですが、後半部分は含蓄ある台詞がでて、非常におもしろいです。
1987年に出版された作品で、1990年に日本語に翻訳されています。本編とは関係ないですが、イラストについて一言述べておきましょう。
この小説はイラストレーションが数個所で挿入されております。イラストレーターはファンタジー作品でよく見掛ける(ハヤカワFTではたくさんその挿し絵をみたかと思いますが。)米田仁士画伯です。社会思想社から発刊されていた『ウォーロック』というファンタジーゲーム雑誌では有名な雑誌がありましたが(休刊中)、そこで表紙のイラストを書かれている、幻想的で想像力をかきたてるイラストを書かれる方です。私個人は米田画伯のイラストが非常に好きで、今回紹介する『不思議の国トリプレット』の小説内でのイラストを公開できないのが残念なくらいです。ぜひ、イラストだけでも見てみたくなると思いますので(当然本編も面白いですよ!)、図書館などで見掛けたら手にとって見てくださいまし。
ティモジー・ザーンといえば、未来忍者軍団の活躍を描いた『ブラックカラー』、『ブラックカラー2/地球潜入』のブラックカラー2部作および、壮大なスケールで繰り広げられる異星人との戦いのために体の各部を強化されたコブラ部隊の哀愁漂う生きざまを描く<宇宙戦記三部作>(『超戦士コブラ』、『コブラ部隊出撃!』、『コブラの盟約』)および惑星ソリテアを舞台とした無実の女死刑囚を鍵とした『死者たちの星域』があります。
彼の作品で日本でもっとも入手しやすいのは、<宇宙戦記三部作>で、1997年4月の段階の目録によれば、最初の一冊だけ書店で購入可能です。(こないだまでは買えたのですが……)『ブラックカラー』も入手可能です。しかしながら、この『不思議の国トリプレット』は上下二冊ですが、上下ともに出版社絶版状態になっています。(注文したらそういわれましたので、確実です。)よって、古本屋を当たるか、図書館で見つけるなりしてください。
著者は1951年生まれのアメリカの作家。ミシガン州立大学、イリノイ大学でそれぞれ学び、物理学を専攻して理学修士号を習得しています。1979年に結婚し、同年アナログ誌7月号に掲載された"Ernie"でデビュー、翌年80年からフルタイムライターになりました。それ以後、彼は、映画<スター・ウォーズ>のオリジナル小説三部作のうち、『帝国の後継者』、と『暗黒の艦隊』の作者でもあり、購入した人も多いと思います。(残念ながら私はまだ購入していないので、早めに買いたいと思っています。)
この本を入手するのに非常に苦労したこともあって、ちょっとバイアスがかかっているかもしれません。まずは早稲田の某古本屋さんで上巻を発見して、「下巻があればなあー」とか思っていたんですが、なんと恵比寿の方にある古本屋さんで下巻が50円で売っていて、まさに「ラッキー」という推移を経て得た本でして、購入後すぐに読みました。(私はストーリーのテンポの良さにすぐに読み終わってしまいました。面白い本ほどこういうものですね。)
上巻はダナエが活躍するわけですが、ダナエ自身ラヴァジンのいうことをきかずに、勝手なことをやって町を追放されたり、”失われた自己”を取り戻すための一つの自己主張としての作品でもあると考えることができます。今までは、何をするにもお目付けがいたのですが、少なくとも案内人しかおらず(といってもこの案内人がボディガードになってしまうのですが)自由奔放にできるかと思っていた矢先に、お目付けみたいな案内人がついてしまう。とにかく彼女は子供扱いされるのがいやな女の子で何事も自分で考えた通りでないといけない。でも、下巻ではその行為を反省することでただの”わがまま”が、大人の謙虚さに変化する部分が非常に印象的な部分です。(後半、主人公ダナエの影が薄れてしまうのがちょっと残念ですが。)魔法世界・科学世界・冒険・謎解きの要素が複雑にからんだ、実にお得な一品であると思います。