『ヤンのいた島』感想めも


 沢村凛『ヤンのいた島』(新潮社:第10回ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作)読了しました。ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、沢村凛さんは『リフレイン』(新潮社)でデビューしており、国家の体制論、社会的弱者の立場からファンタジーを書かれる方のようです。読み終わった後、沢村さんの本は読者を選ぶかもしれないとか思ってしまいました。

 あらすじは三井不動産販売に書かれておりますので、そちらを参照してくださいませ。受賞された三人の作家の顔、略歴、あらすじを見ることができます。

 夢のシンクロニティをうまく用いたファンタジーだと思いました。島国イシャナイには想像上の生物・ダンボハナアルキが生息しているといわれているこの島に生物調査に来た主人公の瞳子(強い女性という性格付け)がこの生物を捜すために単独でジャングルへと乗り込んでしまう。主人公自身が独断専行、自分がやりたいことは自分でやるのよ、だから人の迷惑なんか省みらないという性格をしています。そのため、調査団から離れた彼女は調査団の迷惑よりも幻の生物を捜すためにわざわざ激戦場であるジャングルへといってしまうわけです。途中彼女はゲリラに捕まってしまうのですが、そこで彼女はゲリラの指導者ヤンと出会い、だんだんと彼と仲間たちに惹かれていきます。なぜなら彼女とヤンは同じ夢を見るからだったのです。

 こういう感じで物語は進行していくわけですけれど、沢村さんのアイディアは井上ひさし氏が推薦するように、確かに見事なものでした。沢村さんのアイディアは「予知夢」で、この「夢」の中の未来の世界をパラレルに描くことによって、違った社会を描こうとした点はなるほどと思いました。そして島の守り神ともいえる、「ヤン」が外界から島を守るというアイディアは白眉ものです。

 確かにファンタジーなんですが、でも泥臭いというかイデオロギー色が強くて読んでいるうちにだんだんと「俺はベトナム戦争のゲリラなのか?」という気分になってしまいました。民族自立の戦い、外界との接触による民族の誇りの変化などなど、資本主義に裏打ちされた傀儡国家との戦いみたいな雰囲気が漂っていました。ぼくはこういう話しは嫌いではないのですが、こういう話しをファンタジーとして取り扱うには無理があるのではないかと思います。確かに搾取という構造は現実社会には存在しているのですが、ここまでやると泥臭くなりすぎると思います。その意味で佐藤亜紀の『戦争の法』(新潮社)と比較すると面白いかもしれません。佐藤亜紀の方がイデオロギーを皮肉ることで小説を書いているのですが、沢村さんは逆にイデオロギーを中心にすることで小説を書いているように思えました。略歴を見た限りでは、納得してしまったわけですけれど。

 巧い、とは思うのですが、大賞作の『オルガニスト』と比べてしまうとどうしても優秀賞になってしまうのではないかと思ってしまうわけです。一旦政治色が無くなった氏の作品を読んでみたいとは思います。