『世界の涯ての弓』感想めも


 浅暮三文氏の本と同時に出たメフィストクラブのもう一冊林巧『世界の涯ての弓』(講談社)を読み終えました。浅暮氏の本は帯が高橋源一郎氏の推薦文が、林氏の本は筒井康隆氏の推薦文が書かれています。この本もファンタジーに分類される内容で、浅暮氏の本よりは現実味が強い感じです。実際、香港返還前の香港を舞台とした話で、イギリスの元香港総督バッテン氏が出てきたり、ブレア首相が出てきたりと現実と伝承と幻想が交互に重なり合います。またこの小説の題材は「音楽」。そういう意味では管弦楽をやっている人には伝わること、というのが多々あるかと思います。

 「世界のどこかに、必ずあるはずの音楽と自分が師事しようとした老ロシア人チェリストを求めて主人公馨の友人圭(ケイ)はコンサートマスターの座をなげうって消えた。木っ端みじんになったチェロだけを部屋に残して。馨は友人が何を探し、何をしようとしているのかを知るため、単身香港へと向かう。そこは「世界の涯ての渾沌とした植民都市」。修養が死に絶えた街と友人達から聞く。アーイエと名乗る蠱惑的で不思議な少女に誘われて、アーシン(阿馨:主人公のコラムをかくときのペンネーム)は自分を待っている街へと。」

 この作品もミステリーではなく、ファンタジーです。売れない音楽学校卒の元ピアニストでバイオリニストの主人公林馨は、友人のチェリストの太田圭とコンサートをしていたら、何歳かも知ることが出来ない謎の老人林琴と出会う。老人は謎の手ほどきを馨にします。馨に無料で配付している音楽パンフのエッセイを書かせ、弓使いとしてバイオリンの練習をさせるわけです。つまりすべての鍵は音楽で、その求める音楽を理解したときにアニマ的女性アーイエが出現し、自分がいるべき場所へと誘われることになるわけです。

 筒井康隆氏も帯にかいているのですが、娯楽性などは一切なく、中国の伝奇と伝統を題材にした幻想文学です。途中に挿入されている話がかなり凝っていて、香港という街の渾沌さ(何でもありだが、伝統が死にかけている)をうまく形容して書いているのではないかと思いました。登場人物よりもトータルに見ると実にスマートにまとまった作品だと思いました。気軽に読む、というよりもじっくり読む人向けの作品かと思います。まあ、イメージ的にはここの古街って感じです。