Absolute Red #Secand

 無表情にこっちを見てる。その顔は虎みたいに見えた。鼻筋を真一文字に横切るラインと両の頬に入ったライン、それに奇抜な形の帽子の両端からはみ出た黄金色の髪。ライオンというには大分クセの有る髪をしている気がした。

 「ナイア」
 選曲中のナイアに男は声を掛けた。ゲームセンターの中でこれだけハッキリ聞き取れる声も珍しい。少し低い、けど、よく通 る、それでいて、緊張が伝わる。
 「あいつ、誰?」
 完璧な日本語のイントネーションではなかった。聞き慣れたそれは英語で、州までは特定出来ないけれど、強くはない訛りを感じさせた。
 「この前中野で知り合うたん。士朗っちゅー奴や」
  ユーズが横から口を挟んだ。すると、彼はユーズを見て言った。
 「アンタはユーズだな、ナイアに聞いた。デラ、上手いんだってな」
 「ナイア程やない、コイツにゃかなわん」
 苦笑しながら言葉が途絶える。二人のバトルが始まった。俺はバトルはやったことがないけれど、少なくとも俺が目眩を起こしそうな譜面 をあっさりとこなしていることだけは分かった。
 「おい」
 いきなり横から声が掛かる。赤い眼が俺を見据えていた。
 「お前、どの位できる?」
 それは別段意味の無い社交辞令のようにも感じたが、俺は真面目に答えた。
 「多分、貴方と同じくらいだと思います」
 俺の答えに、彼は顔をしかめた。何が気に入らなかったのだろうか。簡単に彼は答えを口に出す。
 「敬語とかは止めろ。虫酸が走る。俺はニクス、呼ぶ時はそれでいい」
 なるほど、ラフな人物の様だった。しかし警戒されている。どう考えても、ただの一般 人とは思い難い、鋭い『気』を持っているように感じる。
 「俺は士朗。よろしくな、ニクス」
 いつもの癖で笑いかけると、ニクスは少し眉を寄せた様だったけど、帽子に隠れて見えなくなった。けれど、さっきより雰囲気が穏やかだ。腕を組んで二人の勝負の行方を見守っている。
 なんとなく、ニクスは俺と正反対に見えた。俺は普段着やこういう所に来る為の格好でもきちんと着てしまうのに、ニクスは完全に着崩している。それが、なんだか羨ましい…

 「なあ」
 また声を掛けられた。
 「次、勝負しねえ?」

 

 

 結局ボロ負けの勝負になってしまった。俺はニクスの勝負を受けたものの、立ち位 置のジャンケンに負け、普段とは逆の2P側でプレイすることになった。2P側ではターンテーブルの勝手が違い過ぎて、慌てている内に俺は惨敗をした、という訳だ。
 「おい、俺らそろそろ帰るけど、お前らどうするん?」
 用事があるらしく、ナイアもユーズも帰ってしまうようだった。俺はもう少しだけ時間があるので、残ることにした。
 「ほんなら、ま、仲良うな」
 「は?」
 思わず素頓狂な声をあげると、隣にいる金髪の男は少し不機嫌そうに鼻を鳴らした。ユーズとナイアは早足にゲーセンを出てしまい、デラの台の前には、俺とニクスの二人になってしまった。
 「…あのよ」
  この男は、よく人の不意を付く。いくら俺が剣道で緊張感や気を養ってきたとはいえ、ゲーセンの中でまでは緊張しっぱなしではいられない。
 「さっき、悪かった。まさか逆サイドでできないとは思わなかった」
 帽子に隠れて目元は見えない。けれど、照れたように口を尖らせた。

 その後に、ニクスのことを色々と知ることになる。
 でも、この出会いがとても、俺には印象的だったのだ。

 い眼が、今日も譜面を見つめている

 

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