僕らはどこへだっていけるのさ!

Bus Stop[2] 〜Homesick&Wanderlust〜

 そう、僕らが完璧なんて、本当は…

 「スギ!」

 後ろからレオの声がして、スギはくるっと、ダンスの様に振り返る。
 「何、自転車じゃないの?」
 レオは意外そうにバス停の三歩手前のスギを見た。
 「なんとなく。壊すのも嫌だし」
 そんな長旅、と、笑う。軽い荷物は背中に乗って、重そうではない音をさせた。
 「そう、じゃ、シャッター閉めて来て正解だね」
 レオはレオでやはり軽い荷物を背中に背負って、軽くベレー帽をくるんと振り回した。
 「…いつ帰ってくるの、レオ」
 スギはまるで自分が待ち続けていると言わんがごとくに、ポツリ。
 「…さぁね、いつ帰ってくるの?」
 それはスギに対する疑問の言葉だった。
 「…」
 スギは軽く頭を横に降る。
 「…お互い様だね」
 レオはベレーを握りしめた。
 「お誘いがあったけど、断った?」
 スギは事も無げに話題をかえる。
 「ん?んー…一応…」
 歯切れの悪いレオ。
 「僕ね、さなえちゃんに誘われたよ」
 「僕もね、さなえちゃんに誘われた」
 スギもレオも、同じ名前を口にした。
 「…」
 「…」
 二人は一瞬黙り込む。
 「実はね」
 スギはさらりと言ってみせる。
 「ちょっとだけ、手伝って来た」
 どこか得意げに。
 「実はね」
 レオは真似るように言った。
 「ちょっと、曲提供した」
 少し笑みを深くして。
 「結局」
 スギは肩を竦める。
 「僕らってあそこが好きで仕方ないんだね」
 そうみたい、とレオは軽く返事を返す。
 「だけど、いつまでもあそこに居るのは」
 「嫌だった訳じゃないけど」
 レオが続ける。
 「でもそれじゃ見えちゃったからね」
 何かが、どちらともなく口にする言葉。
 「そう、僕らは完璧になるにはまだ早いから」
 「僕らは、まだ未完成でいい」
 そして、おでことおでこをくっつけて、二人で、小さく笑う。
 まるで双児の様に似ているようで似てない二人。
 色々なものを共有して
 「でも、一時期の別れも必要だしね」
 「どうせまたすぐに帰ってくるし」
 お互い様、その声はハーモニーを生み出した。
 「じゃあね、スギ」
 バスがやってくる。
 「バス来たから」
 こくりと、スギは頷いた。
 「じゃあね、レオ」
 自転車にまたがる。
 「バス来たから」
 こくりとレオも頷いた。
 「きっとどこかで遭いそう」
 レオが微笑めば
 「正反対だけどね」
 スギも悪戯に笑う。
 「それじゃ」
 バスは東に、自転車は西に走り出す。

 レオはチョコレートと一緒に
 スギはミルクコーヒーと一緒に

 また別々の場所から同じ所に意識を送る。
 それは、彼らにとって、居心地のいい、けれど、居続けられなかった場所。
 きっと、カミサマ許してね、そんな手紙を添えて。
 さよならは言わなかった二人が。

End

Top

next