本日のお題:パーフェクトについて
Bus Stop[3] 〜Sameone and other hands one〜
「ヒグさんはさ」
僕は問いかけた。
「なんでバスに乗ったの?」今日はスギはいなくて、僕は一人でブラブラしてた。珍しく自転車に乗る気が起きなくて、正解だなって満点解答。バス停にいったらポップンパーティーで知り合った日暮さんが居た。
ヒグラシって長いからヒグさんって呼んでる。本当はヒグ君でいいんだけど、音がよくない。見た目だけならヒグさんのが大人びて見えるって言ったのは、確かさなえちゃんだった気がする。事実、僕はヒグさんの顔を見上げないと話せない。「そうですねぇ」
マイペース。僕らみたいにちょっと人とは違うペースと時間を持ってるヒグさん。
「いつもみたいに川に行こうと思ってたんですけど、なんとなく気が向かなくて」
メモを指先ではためかせる。 乾いた薄いものが重なる音と風を出す音と指先を擦る音は、二人だけ…運転手さんはカウントしない…のバスの中に小さく響いて消えた。
ふぅん、と僕が気の無い返事。するとヒグさんは何かをノートに鉛筆で残した。少しよれた雨の匂いがするノートはなんだかヒグさんみたいだった。
そっと覗き込むと、「偶然の素っ気無さ」と書いてあった。
「どゆ意味?」
ヒグさんはさぁ、ね?と自分も疑問符を付けた。いつもそうだ。普段は結構色々話してくれるし、家事も上手だったりバイトしてたり、本当に普通 の人なのに。フツウのヒトなのに。作詩を始めると僕らの世界の人になるヒグさん。ずるいなぁ、と僕は思う。行ったり来たりは楽しいと思うんだ。
「じゃあさあヒグさん、完璧ってどう?」
僕がヒグさんから鉛筆を奪うと…その鉛筆は呆気無く僕の手に入った。ヒグさんは鉛筆を握ってなかったのかもしれない…ノートにPerfectと書き込んだ。偶然の真下に書いたそれは、ヒグさんの字よりも小さくてスッキリしてる。ヒグさんの文字はちょっと読みにくい。「前に書きましたね」
ヒグさんはそう言ってページを捲る。その手が止まっては動きをくり返し、あるページになったら、文字を指先で軽くなぞった。
「ほら、あるじゃないですか」
指先に少し隠れた単語。PERFECTと、全部大文字で書かれたその周りにはたくさんの単語が散らばっている。
愛
友情
善悪
音楽
子供
大人
世界
パソコン
自転車
歌
声
鳥
料理
夜
カメラ
鍵
風
自分
完璧
よくよく見ればいくらかヒグさんの字じゃないのが混じっていた。
「これ、誰が?」
僕が聞くと、ヒグさんは帽子の上から頭をかいた。
「僕が考えてたらねぇ、お節介な誰かさん達が勝手に書いてったんですよ」
書体が違う文字を優しい目で眺める。この人は凄く友達が好きなんだな。僕は友達好きだけど、僕の事も好きだし自転車も音楽も好きだから、凄く好きなのかどうか解らない。
僕は善悪を指差して誰が書いたか聞いた。
「これはスマイルさんですねぇ。ギャンブラーみたいに善悪はっきりしてれば困ることが減るだろうにって。多分、本心じゃ自分がどっちかについてロボット乗り回したいだけですよ」
完璧な善悪。そういえば勧善懲悪ってどんな意味の言葉だっけ。
「じゃあこっちは?」
今度は鍵を指でなぞった。指に黒く鉛筆の色がつく。
「これはココさん。なんでも、今金庫の鍵が必要らしくて」
完璧な鍵。そんなものがあったら泥棒し放題だよね。なんだろう、完璧な鍵って。
僕はまだ聞きたかった。だけど、これで最後にしようと思った。
「これは?」
完璧な自分。
「ショルキーさん」
短い答だった。ヒグさんは少し表情を堅くして、それ以上は何も言わなかった。僕も黙る。ヒグさんは手を止めて、完璧な自分の文字に目を落としたままだった。
バス停がふたつ、窓に映った。
「完璧って、凄い言葉なんですよ」
ヒグさんは小さく呟いた。
「完璧って、本当に凄い言葉です。だって、未、も、不、も、非、も、無、も付かないんです。本当に、本当に絶対でそれ以上ない時が、完璧なんです」
僕はヒグさんの眼鏡と手を見ていた。反射で見えないヒグさんの顔。眼鏡の黒い縁だけが見えて、ヒグさんのてが少しだけ何かを書き足したのを見ただけだった。
それから、一番新しいページを開いて、未完成、不完全、非公開、無差別、と否定形を頭に乗せた文字が四つ並べられた。全部が、なんだか完璧には程遠く見えた「そろそろ降ります。レオさんは?」
いつものヒグさんの顔に戻った。にっこり、と音がしそうな笑みが人好きのしそうな顔だな…眺めてると赤信号で停止した。
「僕はまだ。またね」
発車してすぐのバス停で、手を振り一礼してヒグさんはバスを降りた。少し向こうの商店街の人込みにあっという間に紛れて見えなくなる。ヒグさんがフツウになってた。僕は帰ったらスギに四つの否定形の付く言葉を挙げさせてみようと思った。
End
2005/09/07
二年前に書いたんだっけか、コレ。
この小説の文章は完全無断転載禁止。
ちょっと私、今の自分に言いたい言葉を書いていたから、
この小説だけは完全にパクリ禁止!
特許も出願してみるから。