その時、誰もが知らなかった。
まさかそのバグが電脳世界に強制的にAIを生み出すバグだなんてことは。

VCSS -4- Unknown dates

 たまたま、そのパーソナルコンピューターを介して幾つかの電脳的な世界が出来上がっていた。もしかしたら何かのゲームだったのかもしれない。とにかく、人物、もしくはキャラクターに該当するものと、そこに付加されるデータ。その組み合わせが世界を象っていた。
 世界に幾つものエリアがあり、その中でも最も暗い場所に、データの廃棄場がある。そのデータの廃棄場は今まで構築されては捨てられ、ハッキングで内容を変えられ、使わなくなったり飽きたりして捨てられたデータが一挙に集められていた。
  その世界を構築するネットワークの欠点は、そこから出た廃棄のデータを外に出せないことだった。完全な消去が出来ぬ まま、サーバーの重さを気にして、別サーバーに作った廃棄場に捨てる。そしてまた新しいデータを作ることの繰り返しだった。

 ある時、突然、その世界に奇妙な生き物が現れた。小さな円形で、1024×768の画面 の上では見落としてしまいそうなほど小さい。しかし、その数は爆発的に増え続けた。その生き物が何を模した生き物であるか、それを確かめる前に、サーバーの重さでそこに接続する全てのコンピューターがネットワークから遮断された。

 増える生き物は、あるハッカーが作った悪戯なバグだった。少なくとも最初はそうだったはずで、本来はその世界が設置されたサーバーを重たくするだけだった。しかし、いつの間にか無限増殖のプログラムが組み込まれ、作ったハッカー本人さえもアクセスが不可能となり、さらにそのバグは暴走を続けた。
 バグは只管に増えたが、その内その重たさが自らの行動をも制限するに至ると、不意に増殖を止めた。そして、さらなるプログラムを自らに取り込む。それこそがオートAIメーカーに他ならない。そのプログラムは条件的に満たされたデータを、本来あったはずのキャラクターに植え込む役割をした。そうすると、キャラクターにどこから出来たのか人格が生まれ、独りでにネットワークの上を歩き出したのだ。
 そのバグはバグ自身にも影響を及ぼした。そのバグは自らをしろろ、という単語で認識し、認識力も何も無いままに、AIを生み出した。これもまた、ただ、只管に。

 それはサーバーからサーバーへと感染した。廃棄場に、一つだけ捨てられたキャラクターの寄せ集めが生まれたのだ。彼はまだ自身を認識しない。しかし、確実にそこに人格が生まれつつあった。
 しろろは彼を見守る。増殖をやめ、何が起きたのか少しずつ減少する中で、新しい役割をもとうとしていた。

 

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