満月の夜。


   
三人は再生まれた

 

Born from the fullmoon

 「アッシュ、スマイル!」
 少し遅れて校門を出た少年が、二人の待人に声をかける。余程走ったのか息が切れていた。
 「そんなに慌てなくていいのに、ユーリ」
 アッシュと呼ばれた黒髪の少年がクスクスと小さく笑う。一緒にスマイルと呼ばれた金髪の少年が笑うと、ユーリと呼ばれた茶色の髪の少年は少しだけ膨れた。
 「お前等が買い物に付き合ってくれるから急いだんだ」
 「ユーリ優しい〜」
 スマイルはにっこりと、笑った。ユーリも破顔して、アッシュがいこう、と先行した。クリスマスが近い、寒くて空が澄んだ日だった。

 「アッシュは何を買うんだ?」
 ユーリは町の小さな雑貨屋の本の棚を濃い青の瞳で眺めながら呟いた。
 「んー…そうだなぁ、まずはクレーおばさんにマフラーだろ、それからマギーおばさんにクッキー、あとグレゴリーおじさんに靴下、それからミックとヒューイにブリキの自動車、あとマリアンヌにぬ いぐるみと、母さんにはエプロン、父さんには金槌とブランデーだね」
 「…随分沢山買うんだな」
 ユーリはほう、と溜息をついた。
 「スマイルは?」
 アッシュが日曜雑貨からその裏手のお菓子売り場を覗くと、唸りながらスマイルはキャンディーボックスを手に取った。
 「実はさ、ロバートはクリスマスに家にいないんだよ。だから、今渡そうかなって。あとはジルおばさんとララ、それからパパとママとフレッド兄さんに。買う物決まってなくて」
 これはララかな、とキャンディーボックスの値段を確かめる。
 「ユーリは?」
 ほとんど同時にアッシュとスマイルが問いかける。
 「そうだな…」
  ユーリは軽くベレー帽をかぶり、首を傾げた。
 「父さんと母さんにケーキ、それから、トニーおじさんにはネクタイ」
 けど、と小さく加える。
 「トニーおじさんはネクタイを沢山もってるから、やっぱりワインにするかも」
 帽子をかけ直してネクタイを手に取る。どれもこれも、アッシュとスマイルが知る限りトニーおじさんの持っている物に似ている。
 「アッシュは、お金が足りるの?」
  スマイルが自分の瞳と同じ茶の瞳を持つ兎のぬいぐるみとにらめっこしながら訪ねる。
 「甘く見るなよって。先月迄に十分すぎるくらい働いたんだ」
 一人暮らしが三ヵ月できるよ、とにんまり笑う。確かにアッシュのバイトの様は激しかった。一週間の内で本格的に休むのは日曜日だけ、他はバイトが必ずあって、できる場合は掛け持ちすらしていた。スマイルやユーリは週にニ、三度でも少しへこたれそうだった。
 「じゃあ、会計して来るよ」
 アッシュはそそくさとレジに向かい、すぐに会計を済ませた。紙袋を一つ、持参の手提げの袋に一つ、そして片掛けの鞄も膨らんでいた。
 「随分買ったな」
 ユーリが笑う。アッシュはまあね、と得意げだった。
 「僕も行って来るよ」
 続いてスマイルも会計にいき、ユーリもその三人後に会計を済ませた。
 「どこか寄って行こうか、今日はバイトないんだろ、アッシュ?」
 スマイルがにっと笑い、アッシュも笑顔で頷く。お給料をもらってからバイトをいくつかやめていたので、今は多くても週に四回のバイトだ。
 「エリゼの店がいいよ」
 ユーリがいきつけの喫茶店を提案すると、既にその足取りは目的地へと向かっていた。

 「寒い〜…」
 スマイルは雪のつもる道を踏みしめて歩いた。アッシュは荷物が濡れないようにしっかりと抱え、ユーリは手袋をはめて息で手の平をあたためている。
 「すげえ雪だったよなぁ…」
 数日前に降った大雪はただでさえ積もっていた雪をさらに深くした。
 「お陰で僕は家から出られなかったけど…」
 ユーリの家は高台で良いなぁ、と低くぼやくと
 「僕の家も酷かったんだ。門が雪で固まって開かなくて、結局父さんがバーナーを持って来て凍った所を溶かしたんだ」
 ユーリは溜息まじりに話したがどこか楽し気な雰囲気が漂う。
 そんな話をしている内に、暖かな空気が漂う喫茶店の前に差し掛かっていた。

 「んでさ」
 アッシュがカフェオレを啜る。
 「結局、クリスマスはどうするの?どこかに出かける?」
 さーみしー、とスマイルは溜息をついた。三人共彼女にふられ、今は独り身なのである。スマイルの場合は彼女に愛想を尽かされただけだが、アッシュとユ−リの場合は彼女のわがままに付き合いきれなかったと言う結末だ。しばらく彼女は入らない、と決め込んだ状態なので嫌でも男だけのクリスマスパ−ティーになる。
 「あー…アッシュんトコの山小屋とか借りられないの?」
 あ、とアッシュが一瞬考え込む。
 「確か、今はグレゴリーおじさんが農具を置いてるだけだから、一部屋空いてるはず」
 山小屋は全部で二つ有るが、片方は万年満杯で、もう片方は入りきらない分を置くことになっている。
 「じゃあ、借りられるか聞いておいてよ、アッシュ」
 うん、と、アッシュは頷いてクッキーを頬張った。ユーリは嬉しそうにその日食べる物や飲む物の準備の話をしだした。

 

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