クリスマスの夜に

   
三人は再生まれた

Born from the fullmoon

 「メリークリスマス!」
  声高に叫ぶ祝福の声が町中に鐘の音と共に響き渡る。
 「メリークリスマス!」
 すでに学校は休業となり、町中でサンタクロ−スが微笑んでいる。子供達は明日の朝が待切れずにわくわくと胸を踊らせ、恋人達は二人で迎えるクリスマスのプランを話し合い秘め合い、親となった者達は翌日の朝の喜びの声を待ちわび、一人の者は今宵のディナーの中身を懸命に思案する。
 「メリークリスマス!」

 ユーリは聖歌隊が歌い出す頃に、父と母にプレゼントを渡した。
 「メリークリスマス、父さん、母さん」
 差し出された少し歪なショートケーキのホール。そしてそこには、自分でチョコレ−トで書いたMerry Christmasの文字がハッキリと見て取れた。
 「まあ、ユーリ!これ、あなたが?」
 母親はびっくり仰天だった。父親はさっそくクリームを救って一嘗めした。
 「さすがだな、母さんと同じくらい上手いぞ」
 ユーリはにっこり笑って、メリークリスマス、と、もう一度言った。

 アッシュは朝から大忙しだった。飾り付けに料理の手伝いに幼い兄弟の世話。結局プレゼントはバラバラの時間に渡した。
 「父さん母さん、メリークリスマス!」
 父と母にそれぞれ包みを渡す。母は包みを開くと早速嬉しそうにエプロンを身に着けた。
 「アッシュ、このエプロンぴったりだわ!有難う!」
 もともと母親の背は少しだけ大きい。普通の女性用だと小さい時があったのだ。
 アッシュの父親は金槌をしっかり握って少しだけ柱を叩いた。
 「手に良く馴染むな、有難うアッシュ。それから、これは今晩頂くよ」
 ブランデーの瓶を軽く降ってウィンクする。きっと今晩彼は夢心地のままぐっすりと眠るのだろう。アッシュは、少し強めのブランデーを選んでいた。

 「ママ、パパ」
 スマイルは二人の前にプレゼントを差し出す。
 「これを私に?」
 母親は丁寧に包み紙を開けて中の箱の蓋を開ける。中から出て来たのは鮮やかな桃色のマフラーだった。
 「ありがとうスマイル!」
 母が彼を抱きしめて頬にキスすると、照れくさそうに笑った。すぐに父もその箱を開けた。中に入っていたのは白いクッションだった。このところ腰を痛めていた父が椅子に座りやすいようにと、選んだ物だった。
 「スマイル、さすが眼の付け所がいいぞ」
 父は彼の髪をくしゃくしゃと撫で回した。

 

 「メリークリスマス!」
 三人は町の真ん中の噴水で待ち合わせていた。ユーリが一番早く来ており、スマイルとアッシュはほとんど同時にやって来た。三人はバスケットの他に手提げ袋やら肩掛けの鞄を持っていた。
 「じゃあ行こうか」
 ユーリは噴水の淵から腰を上げた。聖歌隊の声が町中で響き、今夜のごちそうがその香を漂わせる。そんな中を、町の北側に向かって三人がコートをはためかせながら歩いて行く。至る所でなるクラッカー、喝采、拍手、笑い声。そしてお決まりの掛け声。
 「メリークリスマス!」

 町から出て少ししたところで、ユーリが立ち止まった。
 「メリークリスマス、アッシュ、スマイル」
 二人に包み紙を差し出すユ−リ。それは少し重かった。
 「ユーリ、今開けていいの?」
 ユーリはスマイルの質問に首を横に振って答えた。
 「実は、俺からも」
 アッシュが二人に包みを差し出す。気に入るといいな、と照れくさそうに笑う。
 「皆で小屋についてから開けよう?」
 すぐさまあけようとしたスマイルにユ−リが制止を入れる。それもそうだと、スマイルは自分が持って来た包みを渡した。
 「僕からもね。大した物じゃないけど」
 三人は小さく笑いあって、お互いの包みをしっかりと抱きながら山道を急いだ。

 山小屋まで後少しの所で、不意に三人は頭部に衝撃を受けて気を失った。

 

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