新しい世界で

   
三人は再生まれた

Born from the fullmoon

 「アッシュ」
 さっきから何度も木の根に足を引っ掛けて転ぶアッシュに、スマイルは手を伸ばす。アッシュは少し躊躇ってから、その腕に抱かれる選択をした。
 「道がないから仕方ないけどさ…結構大変だよね」
 ユーリは一人ごちて一度上空に飛び上がり進路を確認する。城から村までは遠くなかったが、険しい道を通 る以外になかった彼等にとっては、十分に険しい道のりだったのだ。
 「あっちまで、ちゃんと行けるかなぁ…」
 スマイルは知らずに、アッシュをしっかりと抱きしめていた。

 

 

 「…ああ」
 ユーリが溜息を付いた。もう村は目の前だ。そしてスマイルも、アッシュも肩から力が抜ける。すでに日が傾きかけていて、三人の空腹も辛くなってきている所だった。
  思わず道の端で三人はへたり込む。歩き通しで少しでも休みたかったのだ。
 「おや、坊や達、どっから来たんだい?」
 快活そうな、でも少し嗄れた声が三人を呼ぶ。見れば猪のような顔をした恰幅のいい人物が、温かな毛皮で出来たコートを羽織り、何やら駕篭を下げてすぐ近くに立っている。
 「…」
 三人は驚きで何も言えずにいた。どうしよう、視線を彷徨わせるユーリとスマイルをよそに、アッシュは二人の後ろに隠れた。
 「迷子かい?…でも今ウチの村には吸血鬼も透明人間も人狼もいないねえ」
 猪は首を傾げた。
 「母ちゃん、ご飯」
 コートの裾を、同じ顔の小さな子供らしいものが引っ張っていた。

 意を決したようにユーリが立つ。スマイルとアッシュはそれを見上げた。
 「僕達、人間のいる所から来ました」
 まっすぐと、猪の顔を見て、はっきりとユーリは言葉を発した。
 「本当は、僕らも人間で…一体どうしてこうなってるのかも、分らないんです」
 戯言と聞き流されるだろう、ユーリすらもそう思っての宣言だった。でも今は事実を話す以外に術がないのだ。猪は少し首を傾げていたが、やがて、もう一度子供がご飯、とねだった時に、そっと耳もとに囁いた。
 「今日はアタシのウチにおいで。明日、村長に相談してみるよ」

 その日の夜は、その猪の家族と一緒に過ごすことになった。生活様式はユーリ達が生活していた場所となんら変わらず、ないものといえば人間の姿くらいなものだった。
 暖かい夕飯、優しく温めてくれる風呂、安らげるベッドがそこにはあった。
 三人は疑いもせずにそれらに甘えた。今もし疑うとすれば、それは今この事態が夢ではないかということぐらいだったが、それを疑う気力も根拠も三人にはなく、ただほんの少しだけ手に入れた安心感に体を休めることに専念した。

 

 翌朝、村長の元へ三人は送られた。村長は真っ白な獣毛に覆われた猿だったが、猿とはいえ、その瞳には理知的な光が宿り、もちろん言葉を理解していた。
  村長の判断で、三人は一度離別せざるを得なくなった。アッシュは北西、ユーリは北東、スマイルは国の中心でそれぞれの種族の集落で体に慣れることから始めるべきだという判断だった。

 

 翌朝、すぐに身支度を始める。村の資金を少し使って、三人に旅費だけは出してくれることになったようだった。
 「ユーリ」
 見えない瞳から透明な液体がぼろぼろと流れ落ちる。スマイルは鼻声でユーリを呼んだ。アッシュも人の姿になって立ちすくんでいる。ユーリはうなだれたままだ。
 「ちゃんと、体に慣れたら、また会おうね」
 何度も鼻を啜り、遂に誰ともなく泣き出した。
 「手紙書くからね」
 「また一緒にクリスマス、しようね」
 「絶対だからね」

 いつしか涙は止まり、三人はそれぞれに引き取りに来た、自らと同じ種族の大人に手を引かれてバラバラの方向へと、歩き出した。

 

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