彷徨うという言葉の意味をこの身にもって実感した。足が動かなくなることはなかった。それは悲しいことだった。俺は立ち止まることができない。
誰にも引き止められない。Deuil-Side ASH- Lange lange StraB
世界中を旅した。何かを振り切るような気分でただ歩いた。世界各地をまわって料理を様々な師から教わり、俺は色んな人に会って色んな人と別 れた。中には人間じゃない人もいる。
俺がメルヘン王国を出る頃、丁度、地球とメルヘン王国の和平条約が可決した。その所為もあって、今ではメルヘン王国へ旅行する人間もいるらしい。もちろん、その逆も然りで、世界中何処に行っても宇宙人とメルヘン王国人はいた。他にも初めて聞くような世界はあったけど、あんまり細かくは覚えていない。俺にはあんまり意味がなくて、やりたいようにやりたいことを続けるような旅を当て所なく続けた。
暫くして世界を廻り切ってしまった。地球はこんなにも狭かったんだと、俺はボロボロになった写 真を見つめた。今はどうしてるだろう、子犬のまま出ていってしまった彼は。
久しぶりに訪れたある土地で、俺は以前あった頃より随分大人になった少女を見かけた。背が伸びて髪が伸びて、化粧が薄いのに顔はほんのりと色付いて。
彼女は俺に気付いて挨拶して、お変わりない様で、と言った。君は随分綺麗になったと言ったら、五年も過ぎていますもの、と笑った。五年間、俺は五年間でどれほどの料理のレシピを手に入れたのだろうか。世界の全ての…いや、それはない。まだ作り方を知らない料理がある。知りたいことは知りたい… けれどもう、俺は疲れていた。彼女だけじゃない、他の人も成長したり老けたり、亡くなったりして、俺は人を忘れられない自分の性分を呪った。
煩わしいな、と。人との関係も世界をもう一周するのも。彼女と別れ、別の道を歩きながら、遠く広がった空を見て、その青さに溜息をつく。
帰ろう、メルヘン王国に。
いつの間にか俺の居場所は地球の上になくなっていた。ここは五月蝿い。それに、寂しい。日本なんか近寄る気にもなれなかった。俺の家はメルヘン王国にまた作ればいい。地球に居たくない。
…外見だけ変わったと思っていた俺は、心も変質していたんだ。地球の上では俺はやっぱり、地球の生き物じゃない。もう否定する気にもならない。
俺はメルヘン王国へと足を向けた。
Deuil-Side ASH- Lange lange StraB Ende