新しい家を借りて、新しい職場を捜して、新しい隣人ができる。
 けれど五月蝿くはない。平穏で静かで、風が吹き抜けるくらいで丁度いい。

Deuil-Side ASH- Neue StraBe

 今は、地球の名物料理の店で和食と中国の東側の料理を専門にコックとして働いている。地球との繋がりができ、メルヘン王国の人々は目新しい地球の文化に興味を示した。俺の料理は喜ばれるけど、俺はあんまり嬉しくない。実の所、俺の腕が確かかどうかなんて地球に行ったことの無い人達には分らないから。
 結局また、つまらない日々を送っていた。

 ある日、俺は突然にそのポスターを見つけた。街角にある、何の変哲もないポスターだったが、流暢とはいえない英語と、日本語、それから他の国の訳が付いた、ただ白い紙に印刷されただけのそれがいやに目を引いた。
 あんまり気を引いたものだから、俺は自分の夕食の為の材料を抱えたまま壁に早足に近付く。

 

 ユーリ、と最後にサインされたそれは、おこがましいけど、俺の事を呼んでいるみたいに見えた。
 何回もその名前を口の中で呟く。どんな人だろう。地球に行きたいだけの、平凡な人物ではない。何か行動しようとするその姿勢が、俺には好ましかった。
 紙袋に、ポケットに入っていたボールペンで番号をメモすると、俺は壁に近寄った時よりももっと早足に家へ帰った。
 早く、はやく電話しないと!

Deuil-Side ASH- Neue StraBe Ende

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