白い雪が覆う場所で

   
三人は再生まれた

Born from the fullmoon

 「アッシュ、こっちでいいのか?」
 ユーリが心配そうに訪ねる。しかしアッシュは自信満々に頷いた。匂いで町の方向が分かったらしい。
 三人は自分達の持ち物をなんとか回収し、少し風が強い夜を歩いていた。
 「でもさ…ユーリ…」
 スマイルがぽつりと呟く。
 「僕達、分かってもらえないんじゃないかな…僕達だって」
 ユーリの足が止まった。
 「…ならば、僕はこのまま、居なく、なりたい…」
 その声が嗚咽で途切れる。コートの袖に拭った涙が後を残す。ユーリの面 持ちも暗い。同じ心配をしたのだろう。アッシュも耳を完全にぺたりと寝かせ、尻尾も意気消沈した様子で垂れ下がっていた。
 「…スマイル、そうだな…」
 ユーリは疲れた声で肯定した。
 「憶えてるか?町の裏手に行った所に誰も使ってない山小屋があったのを」
 アッシュは不安そうに鼻声を漏らした。
 「そこまで行こう。まだ近いはずだ」
 ユーリはきびすを返し、反対方向へ歩き出した。アッシュがそれに続き、スマイルは、少しだけ町の方向を見やって後を追った。

 山小屋はまだ十分に使える状況だった。雨漏りもなく、暖炉も乾かした薪がまだ存在していたので使えた。
 「ベッドは一つか…」
 困ったね、とスマイルは笑う。アッシュは獣の姿のまま毛布を探していた。ユーリは持参していたマッチで薪に火をつけようとしていた。
 スマイルは暖炉に火がつくと、バスケットの中身をあたため直した。チキンは冷えて白くなり、サンドウィッチは中身が凍って、クッキーなどには霜が降りていた。
 アッシュは使えそうな毛布を何枚か引っぱり出して、暖炉の前で乾かした。そして自分も冷えた毛皮を何とかしたいのか暖炉に当たる。
 ユーリはコ−トを脱いで壁に掛け、溜息をついた。
 「クリスマスのプレゼントにしては、余りにも不幸だね…」
 溶け始めたオレンジジュースの瓶を開けて、持ち込んだコップに注ぎ込む。そして座り込み、アッシュを膝に乗せて撫で回した。
 「とにかく…お腹空いたよね、ほら、溶けてきたから食べよう?」
 スマイルがチキンを差し出す。ユーリはそれを受け取ってアッシュに銜えさせた。スマイルは自分でもチキンにかぶりつきながら、ユーリにもう一つチキンを渡した。
 「…」
 ユーリは暗い面持ちでチキンを眺めた。
 「どしたの、ユーリ?」
 皮の部分を嚥下し、スマイルは骨を噛まないように肉を食いちぎる。
 「…あんまり、食欲がないんだ…」
 アッシュが顔を上げる。ユーリは溜息をついた。
 「…放っておいてくれていいよ」
 「じゃあ僕はずっと気にしてやるから!」
 スマイルはサンドウィッチの具がはみ出すのも構わずに噛み付いた。
 「ユーリが心配だもん、僕だってこんなだけど、ユーリのことだって心配だよ」
 スマイルはユーリの首に腕を掛けて引き寄せた。そしてユーリの手からチキンを奪って、無理矢理ユーリの口に入れた。
 「だから、元に戻れる方法探すんだ。ユーリの食欲が旺盛になるように、ね」
 表情が見えない分、言葉は大きかった。アッシュも尻尾を振りながら同意を示す。
 「…ありがとう」
 チキンをちゃんと咀嚼して、ユーリは飲み込んだ。
 「僕にもサンドウィッチをくれない、スマイル?」
 もちろん、とスマイルはサンドウィッチをユーリに渡す。
 アッシュはチキンが上手く前足で押さえられないので何度も何度も取りこぼす。ユーリは笑ってそのチキンをちぎって口に運んでやり、スマイルはサンドウィッチを食べさせてやった。やがて満足そうにアッシュが寝転び、ユーリはオレンジジュースを二回おかわりして、スマイルは最後にバスケットから大分形が崩れてしまったタルトを取り出した。
 「あー…せっかくアッシュの手作りなのに」
 スマイルはどうにかそれを取り出して口に運ぶ。ユーリもそれに習ってタルトを取り出し、半分に分けて片方をアッシュの鼻面 前に差し出した。
 「あっ」
 チョコレートのタルトは少し溶けていて丁度いい加減で、スマイルは喜んでタルトの生地に染み込んだチョコレ−トを堪能し、ユ−リは微笑んで小さくタルトをかじる。アッシュは嬉し気にタルトを咀嚼しながら沢山こぼしてしまった。

 ベッドに潜り込んだユ−リは、スマイルがずっとコ−トを着ているので少し暑いのではないかと思ったが、そんな心配は無用だった。ベッドは冷えきっていて、スマイルのコートが暖かいのでなんとか眠れる程度だろうか。
 アッシュは下からその様子を見つめて、一つ大きく欠伸をする。と、途端にユーリが抱き上げて横にアッシュを寝かせた。
 「まさか犬だからといって遠慮してるわけじゃないよな?」
 ユーリは可笑しそうに笑う。先ほどからアッシュを犬、とばかり呼ぶのだ。アッシュは最初こそ吠えたり軽くタックルして抵抗したが、結局は諦めて犬に甘んじる羽目になった。
 「おやすみ…」
 スマイルがいの一番に寝息を立て始め、ユーリはアッシュを抱き枕にして、二人と一匹はどうにか狭いベッドの上で眠り始めた…

 

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